ホームレス
海月くらげ
ホームレス
高架下の暗がりは、ぽっかりと開いた
洋子は、まゆをしかめた。
近道は失敗だった。
朱莉の小さなピンクの雨ガッパが、洋子のスカートにしがみついてくる。
洋子の両手はふさがっている。
左手は傘。
右手はスーパーのぎっしりレジ袋。
レジ袋を、こくまろ甘口の箱が突き破りそうで、洋子の自由をうばう。
朱莉がスカートの後ろに隠れるように立ち止まる。
洋子もおもわず足を止める。
蛍光灯が、かちんかちんと小さく硬質な音をたてる。
ちかちかとした点滅が、高架下トンネル歩道の雑然とした状況と、羽虫の軌跡を浮かび上がらせる。
段ボールを組み合わせた粗末な家が、半分だけ雨に濡れている。
濡れた部分が、白く人工的な光を反射する。
雨のシミが歩道の中ほどまで浸透している。
空き缶と打ち捨てられたごみが周囲にまき散らされている。
パックには、食べ物の残りカスがこびりつき、異臭をはなつ。
中の住人が、ぞろり、と段ボールをゆらして、はい出してきた。
毛が伸び放題だ。
毛むくじゃら。
白い反射光が、脂ぎった毛筋を暗がりに浮かび上がらせる。
洋子と朱莉ににじり寄ってくる。
声をあげても雨の音が打ち消すだろう。
朱莉が、叫び声をあげて傘の下から雨のなかに駆けだした。
「ダメよ! 朱莉!」
もう遅かった。
「ママー、おうち、連れてくー」
「いけません」
ずぶ濡れの子犬を抱きしめる朱莉のひとみは、かまぼこ型にキラキラしている。
洋子は、レジ袋と傘をゆらして、カクンと首をうなだれた。
ホームレス 海月くらげ @jellyfish_pow_2
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