第8話 クエストガチャ習得しました

「どこまで見ても荒野、そして空にはハゲワシのようなモンスターが飛んでいると、これって人生の終わりとしか思えないし、さらには領主の屋敷はぼろぼろで、トイレもぼろぼろ、挙句の果てには民家が全滅って、誰も住んでねーし」


「カイル様、母君のお墓に手を合わせてください」

「分かってるって」


 ジーバ執事長が物申すと。

 カイルは母親のお墓に手を合わせた。

 まず、棒のようなものが刺さっており、そこに指輪が埋め込まれている。


「これなんだ?」


「母君の遺産です。これはあなたがここに来た時、身に着けて欲しいとの事でした」

「ふむ、指輪か」


 指輪を取り合えず適当にハマりそうな指にはめてみると。


【クエストガチャを習得しました】


「は? なんかスキル覚えたぞ」


「おめでとうございます。どんなスキルですか?」


「クエストガチャだってさ、えーとランダムにクエストが表示されるからクリアすればガチャを回せるってさ、えーと失敗すればペナルティーだってさ」


「それは恐ろしいスキルですね」


「そうか? クリアすれば良いんだろ」


「カイル様、問題が、先程、馬車に詰め込んでいた食料がネズミに食われて全滅です」

「なんだってえええ」


 リラメイド長が悲しい現実を突きつける。

 メイド服を身に着けながらふっくらとした胸をしている。

 カイルの目線はいつも胸に注がれてしまうが、わざとではない、リラメイド長は長身の為そこにどうしても目が行ってしまう。


「食料ならそこらへんにモンスターがいなかったか、作物もないし、終わったな」


 カイルが絶望の眼差しでジーバ執事長とリラメイド長を見る。

 2人共至って落ち着いている雰囲気だったが。


「私は携帯食料があるので、しばらく大丈夫です」

「わたくしもです」


「お前等裏切ったなあああああ」


 ぐぅううううとお腹の虫が鳴きだした。


【クエスト発生:クワを1000回振れ】


 突如異空間よりクワが出現する。

 それをリラメイド長とジーバ執事長が驚きの眼差しで見ている。


【2時間以内に】


「ちょ、えええええええ」


 カイル・オリゲートは突如としてクワをひたすら振り出した。


「私は今感激していますわ、ついに剣帝として目覚めようとしているのですね」

「どこに剣帝になる為にクワを振るバカがいるんだよ」


「クワは先っぽの重心が重たく、大剣を振り回すときの訓練になると、師である神速のルーム・クラフが申しておりましたわ」


「しかも2時間以内にやらないとペナルティーが来るぞ」

「頑張ってください、あれですよね、頭上に時計が出てますけど、残り1時間程ですよ」


「はえーわ、てか俺の頭の上に表示されてんのかよ、うわまじだ」


 カイルは頭上を見上げると、タイムが表示されている。


「うらあああああああああ」


 筋肉が引きちぎれるのかと思う程、カイルはクワを振りまくる。


「はぁはぁはぁあ」


 なんとか1000回クワを振り終わると、腕の筋肉痛が激しくなっている。


「ガチャ3回分出来るってよ」


 謎の声が告げていた。


「ガチャと言えば、カイル様が望んでいるギャンブル要素があるスキルですね、母君もそれを願っていたのでしょう」

「ジーバよ俺はもうギャンブルはしたくねー」


「何でですか? それを望んでいたのはあなたでしょ?」

「いや、な、ガチャで何が出るかまったく分からないけど、取り合えず物凄く嫌な予感しかしねーよ」


「カイル様、勇気を振り乱そうではありませんか」

「ジーバ執事長それはなんか無謀な気がするよ」


 ガチャを回すと。


【R=干し肉×20枚】

【R=馬鈴薯の種×100個】

【R=玉蜀黍の種×100個】


【クエスト発生 クワで畑を耕し、作物の種を植えろ】

【3時間以内に】


「やっぱりこういう事なのねー」


 カイルはガチャが終わった瞬間に、そのガチャ品がまさかのクエストガチャに繋がってしまう悲劇に合っていた。


「腹が減ったから、干し肉食いながら、耕すぞ」


 先程異空間より出現したクワで、ひたすら畑を耕すカイル。

 

「私は感激しています。あれほど才能があるのに働かないあなたを見てきました。ですがこのリラ、今カイル様が働いているところを目撃しているのですわ」


「ジーバも感激でございます。これからも畑作業をすることを覚えていきましょう、そうやって領地とは経営されるものなのですからね」


「いや、お前等は何もしないんかい」


「私はカイル様の動きを見ているだけで満足ですわ」


「わたくしはカイル様の成長を見ています」


 2人はにこにことただ眺めているだけだが。

 カイルは死に物狂いで畑を耕している。

 ある程度の広さを耕すと、馬鈴薯の種と玉蜀黍の種を埋めまくる。

 もはや植えるではなく乱雑に埋めていく。


「はぁはぁあぁ」


 汗だくになりながらも、全身から疲労感がぬぐえなくなり。

 だるさよりもペナルティーが怖すぎて必死になっている。


 ガチャが3回出来るようになったが。


「ちょっと休憩しよう、絶対ガチャ回すとクエストが発生するぞこれ」


【クエスト発生 畑全体に水やりをしろ】

【制限時間10分】


「うっそでしょおおおお」


 突如異空間よりジョーロが出現する。

 しかも、無限に水が入っているようだ。異空間のどこかと繋がってるのだろう。

 めちゃくそ重たい。


「ぐおおおおおお、これなんだ。巨大な岩くらいの重さだぞ」


 カイルは必死に10分以内に水やりを終えると。


「はぁはぁ、もうダメだ腕がちぎれそう、ガチャが合計4回出来るようになったけど、これどうしようか」


「クエストガチャは因果関係から出現するみたいですね」


「つまり、現在何が起きてるかによるんだろうな、クワを振る→畑耕す→種を植える→水をやるて事は、あの水が普通じゃないとしたら」


 見る見るうちに馬鈴薯と玉蜀黍が成長していく。

 そして、あっという間に実が実ると。


「く、くるぞおお」


【クエスト発生 作物を収穫せよ、20分以内に】


「うらああああああああああ」


 カイルは必死になって動き出す。

 作物を収穫しながら、脳裏では母親を恨んだりもした。

 これは明らかにカイル自身の肉体レベルを強化させる目論見を感じるからだ。


「はぁはぁは、もう無理、ざっとガチャが6回分貯まったけど」


 カイルは辺りを見回す。

 取り合えず馬鈴薯と玉蜀黍をぼろぼろの領主の屋敷の地下倉庫に移動させる。

 なんとかクエストガチャが発生しないだけましかもしれない。


「きっとこの指輪外してもクエストガチャは消えないんだろうな」


「スキル習得は生身の体がするものですわ、この世界では3個が限界とされてますが、例外はおりますわね」

「リラの言う通りです。ですが、スキルとは魂に宿るとされているそうですよ」


 リラメイド長とジーバ執事長はどこからか椅子を持ってきて、座りながらカイルの1人劇場を眺めているのであった。


「ガチャ回すぞ、ぜぇぜぇ」

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