01-01-03 かみさまが選んでしまったのは、ショタビッチでした - 3

 「さて、じゃあ性能試験と行こっか」

 アヴィルティファレトが指を鳴らすと、五メートル先の地面から、棍棒を持った二体のオーガのような影が染み出した。

 「簡単に戦闘スタイルを見て、出力が問題ないか確認するんだ」


 「ふええ」

 オドはポカンと口を開け、オーガの影を見上げている。


 「この世界は、光、闇、火、水、風、生命、鉱石の七属性で成り立ってる。最後の二つは土の陽と陰の面が分かれたものだ」


 アヴィルティファレトはルノフェンの肩に手を置き、告げる。

 「まあ、そうだね。ルノくん、オドに手本を見せてやってほしいな」

 「はぁい」

 猫が媚びるような声で、承諾。


 声の調子とは裏腹に、ルノフェンは拳に荒々しい魔力を集める。

 彼が魔力を練り終え、「うん!」と気合を入れると、両腕には瘴気で出来たガントレットが装着されていた。


 「あれは、風の陰属性だね。質量のある気体を操作できる。応用すると、雷も使えるね。ルノフェンはその中でも瘴気を選んだか」

 感心するアヴィルティファレト。

 「がんばれー!」と応援するオド。

 

 「せー……」

 ルノフェンは身をかがめ。


 「の!」

 爆発的な瞬発力で、突進。

 

 「GRRRRRR!」

 影はすくい上げるように棍棒を振り上げ、ルノフェンに渾身の一撃を叩き込もうとするが。

 「はっ!」

 ルノフェンは左ガントレットの瘴気を、影の棍棒を持つ腕に絡みつかせ、拘束。

 

 「ARGHHHHH!」

 影はなおも残った方の手で掴みかかる。


 しかし、相対する彼は怯えない。

 それどころか、握撃を加えようとする掌に自ら飛び込んだではないか!


 (素手なら毒が直に刺さる。だよね?)

 彼は心の中で呟き、拳が閉じる前に瘴気の出力を高め、殴りつけた右の拳を媒介に、影のオーガへ注ぎ込む。


 たった一瞬の出来事であった。


 「GYARRRRRR!?」

 おお、なんということだろう。影の拳は腐り果て、肩の根本から崩れ落ちていったではないか!


 そして彼はもがく影の頭に取り付き。

 「ふぃにっしゅひーむ」

 致命的な瘴気を、脳内に直接流し込んだ。


 瞬く間に、影は倒れ伏した。

 ルノフェンの勝ちだ。


 「うんうん、影のオーガでそのくらいなら、多分イケるかな」

 アヴィルティファレトは満足そうだ。


 並の魔法の使い手では、ああは行くまい。

 身長三メートルもあるオーガを物ともしない身体能力と、相手の本領を万全には発揮させない即応力。

 そして、十分な魔力と、魔法の応用力。


 神としての心境は複雑ではあるが。

 「戦闘力は申し分ないよ。クエストの方もよろしく」

 最終的には、握手とともに、契約はなされることとなった。


 一方の、オド。

 「とまあ、今のが理想的な戦い方の一つかな。君の得意分野は生命だけど、どんな属性でも応用は利く。考える時間はあげるから、あの影を倒すにあたって色々試してみなよ」

 「は、はい!」

 緊張しながらも、彼も戦闘を開始した。


 初手。

 オドは地面に手を当てる。

 手が触れた途端、様々な花々が自由気ままに生まれ、オドに寄り添うように蔦を絡めていく。


 「うーん」

 今一つピンと来ないのか、手を離し、生成を止める。

 魔力の質を変え、もう一度。

 次に生えてきたのは樹木。

 天を貫くようなスギ、樫、そして、バンブー。

 バンブーを手に取ろうとし、根元の部分だけを腐らせたところで。

 「わっとっと」

 あまりに重すぎることに気づく。


 バンブーはそのまま傾き、派手な音を立てながら倒れていった。


 「これはコントロールが難しいな」

 気を取り直し、三度。

 次に生み出したのは、肉の塊。

 「うえっ、本当にできちゃった」

 生み出した本人が一番戸惑っている。


 しかし。


 「うーん、でも、もしかしたら」

 なにかを思いついたらしい。

 「とりあえず、やってみるか」

 再度地面に手を当て、今度は狙って海鳥を呼び出す。

 バンブーの一部を枯らすことで器用に節を一つ取り出し、その中に魔法を込めた肉塊を詰め込む。

 「ねえ、海鳥さん。ちょっと、このお肉をあの影のところに持っていってくれない?」

 海鳥を腕に止まらせ、額をカリカリと掻いてお願いする。

 「ぐわ」

 承知した、とのことである。


 さて。

 海鳥は、無事に目的を果たした。

 影のオーガの目の前に、ポトリ、と美味しそうな生肉が落ちる。


 突然降ってきた食料に困惑する影のオーガ。

 匂いを嗅ぎ、その異常な新鮮さに気づくと、無造作に口に運ぶ。


 「GULP」

 よく噛みもせず、飲み込んでしまった。


 この瞬間、オドの勝利が決まった。


 実のところ、この肉に掛けられていたのは、遅延化された、彼が脳内のリストの中から一番強力そうだと感じた回復魔法であった。


 その名は《キュア・シュプリーム》。

 現時点のオドが知ることではないが、基本的に瀕死の巨人族に対して使う魔法であり。

 間違っても小型の生物に使うべきではない魔法だ。


 もっとも、当のオドとしては、単なる実験のつもりだったのだが。


 「ARGYARRRRRRR!?」

 影のオーガに飲み込まれた謎の肉は、回復魔法の発動とともに胃の中で膨れ上がり、更には爆発。

 散弾と化した細胞の塊は、そのまま筋肉を貫き、骨に穴を開け、皮膚から射出され。

 犠牲者となった影のオーガは、惨たらしく爆発四散し、その役目を終えることとなった。


 「あえ?」

 その惨状を見て、頭を抱えたのが生命神テヴァネツァクである。


 「ねえ、アヴィ。この子、魔力量どうなってるの?」

 生命をいとも軽々と創造し、オーバーヒールにいたっては鼻血程度では済まず、物理的な破壊すら伴う。

 何より、それだけのことをやっておいて、まだ余力が残っているどころか、ほとんど消耗していないようにすら思える。


 これは、生命の神から見て、ヒトとしてはまさしく異常なスペックと言えた。


 「はっきり言って、予想外だ。これだけのものをんでおいて、君の方は何ともないの?」

 心配を投げかける。

 「むしろコストは安かった。魔力の相性が良すぎたのかなあ」


 死骸、というよりはぐずぐずになった肉の塊を確認した後。

 声を張り、こちらに駆け寄ってくるオドを見ながら、神々は呆然とするのであった。


 ◆◆


 一呼吸。

 もう一杯ハーブティーを飲んでから、早速出発することが決まった。


 「まあ、とりあえず二人とも合格ということで。特になにもないなら、このまま黄砂連合に送る」

 説明しながら、アヴィルティファレトは魔法陣を二人用に拡大し終えた。


 「準備できてまーす」

 「わたしも行けます!」

 二人は張り切っている。


 「じゃあ送るね。サポートはする。最初は神殿に向かうといい。それじゃあ――」

 《テレポーテーション》。言葉とともに、世界がゆがむ。

 シュレヘナグルにリンク。座標特定。転送。


 二人の姿は薄くなり、神の座から離れゆく。


 「やっべ、ズレてた!」

 転送中、妙な声が聞こえた気もする。

 気のせいだと信じたかったが、どうも、彼らが最初に降り立った地は。


 「ねえ、オド。これさ」

 「ルノ、わたしも同じ感想かな」


 少年たちが見渡す限り、三百六十度の、砂、砂、砂。そして、砂。


 そう、要するに。


 「「砂漠のど真ん中だー!?」」


【続く】

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