ゆけゆけ! 綾木学園探検隊部!! ――封印と叫びで世界を救ったら、バズって有名人扱いされました!?

金城由樹

第一章:探検隊部始動! 動新入生を追え!  謎の地下迷宮と探検部の影!!

第一節:新人勧誘! あるいは運命の出会い!!

 春の風は少し冷たかったが、空はまぶしいほどに晴れていた。

 白島はくしま菜奈ななは、綾木あやぎ学園の正門前で制服のスカートを整え、小さく息を吸った。


「……よし、第一歩!」


「ちょっと、ひとりで盛り上がらないの」


 隣で呆れたように笑ったのは、諏訪すわ礼子れいこだった。

 中学からの幼なじみで、綾木学園でも同じクラス、一年C組になったばかりだ。


「いやほら、入学式って緊張するじゃん。初日だし、雰囲気作り大事でしょ?」


「その“雰囲気”、スカートつまんでつぶやくのはたぶん違うと思う」


「うっ……いいじゃん、憧れてたのよこういうの!」


 栗色のセミロングを揺らしながら、菜奈は軽くふくれっ面をしてみせた。

 新しい制服、新しい校舎、そして、新しい日々。

 すべてが、まだ手つかずの宝石のようにきらきらしていて、どこか夢みたいだった。


「……でもほんとに、礼子と同じクラスでよかった」


「うん。ま、担任があのクセ強そうな先生じゃなかったら、もっと良かったけどね」


「そこは運命ってことで……」


 ふたりは笑い合いながら校庭に向かう。


 •


 そして、そこで待ち構えていたのは、まさに渾沌カオスだった。

 運動会か何かが始まるのかと疑うような光景が、目の前に広がっていた。

 部活動紹介のための勧誘ブースがずらりと並び、テンションは完全にフルスロットルだった。

 サッカー部がボールを蹴り合いながら「パスもらいにきてー!」と叫び、野球部がトスバッティングをしながら「夢は甲子園!」とシュプレヒコール。

 剣道部は素振りを披露し、「礼に始まり礼に終わる! 礼が八割だ!」と謎のアピール。


「なにこれ、入学式の直後よね?」


「うん……これはもう、戦場だよ、菜奈」


 文化部はさらに超越していた。

 吹奏楽部はアニソンメドレーを全力で吹き鳴らし、演劇部は血まみれメイクで「学園七不思議 舞台化決定!」の看板を掲げて校庭を走り回っていた。

 そして文芸部は静かに、しかし淡々と「部員が来ないなら怪談書きます」と黒板に書いていた。


 ある意味、一番怖かった。

 礼子と菜奈は校庭の端を慎重に歩きながら、比較的まともそうな部活を探していた。


「うーん、運動部系は無理だし……」


「文化部は文化部で、個性が過ぎてるよね……」

 

 そんなふたりの目に、ひときわ異様なブースが映る。

 テント、ロープ、懐中電灯――。

 そして中央に、堂々と置かれた巨大なドラ。


「……あそこだけ、方向性が違わない?」


「うん。“部活”じゃなくて“異世界から来た”って感じ」


 ふたりが目を向けた瞬間、ゴォォォォン……と重々しいドラの音が響いた。

 その直後、声が飛んでくる。


「そこの君! 君だ君ッ!!」


「えっ、な、なにっ?」


 菜奈が振り向く間もなく、長身の女子生徒が猛スピードで突進してきて、菜奈の肩をがっちりとつかんでいた。

 黒髪ロング、目がギラついている。動きが速すぎる。やたら元気。


 つまり……、怖い。


「間違いない……この風、この空気……あなた、探検の素質あるわ!!」


「えっ!?  いやいやいや、わたしそういうのじゃないんで……」


「ようこそ! 『探検隊部』へ!!」


 勝手に勧誘が完了した。

 気づけば菜奈の手には軍手とヘッドランプが握らされている。


「体験入部だから安心して! まずは作戦会議よ、はいこっちー!」


「いやほんとに待って、話聞いて!? 礼子ぉぉぉ!!」


 助けを求めて振り返ると、礼子は二歩下がって「また明日ね」と口パクしていた。


 菜奈はそのまま、黒髪ロングの怪しい先輩に引きずられていった。


 •


 向かった先は、旧校舎の裏手。地図にも載っていない、木造の扉の前だった。


「ここがわたしたちの基地よ!」


「“部室”じゃなくて“基地”って言った!? いやその前に、この建物、廃墟では?」


 扉の中は、さらにビッグバン状態だった。

 古い机に散らばる地図、壁に貼られた“今週の調査目標”、乾パン。

 非常口の張り紙の横には謎の十字マークまである。


 そこにいたのは……


「副隊長の田中口たなかぐちです。お茶、淹れてますけど気にしないでください」


「撮影担当、蔵王ざおう。……どうも」


栂池つがいけっす。SNSと音声やってます。隊長がうるさいけどやってます」


 個性が強めな二年生男子たちだった。全員、表情が薄いか、もしくは遠い。

 改めて正面に立ったのは、あの黒髪ロング女子。


「わたしは二年生の朝日あさひ麗佳れいか。探検隊部部長……じゃない! 探検隊“隊長”! あなたの運命を変える女よ!」


「いや変えないで!? っていうかわたし、入部してませんから!?」


「だいじょうぶ! まだ体験だから! まずは“旧図書館地下探検”からね!」


「いやまずそこが全然だいじょうぶじゃないってばあぁぁぁ!!」


 こうして白島菜奈の高校生活初日……。

 始まるはずだった平和な日々は、ドラの音と共に強制終了し、代わりに“地下へ連行される運命”が幕を開けたのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る