『Memories』──放す瞬間こそ、本当の解放

〈Memories〉を初めて聴いたとき、何より耳に残ったのはあの一言だった。

 Taka は叫ばない。声を荒げることもない。

 まるで何気ない雑談のように、ふっと口から出たその言葉が、

 胸の奥にずっと溜まっていた何かを一瞬で撃ち抜いた。


 原曲で静かに放たれる英語の罵り言葉――日本語では再現できない、その生々しい衝撃は今も耳に残っている。

「あ、手放すときって、こんなにあっさりしていていいんだ。」

 そう思った瞬間、胸の中の景色が変わった。


 曲の冒頭は穏やかだ。

 夜空を見上げ、きらめく光に感嘆する。

 けれどすぐに、自分の心を突き刺す問いがくる。

「いつから奇跡を探すことをやめたんだろう」――

 それは失望というより、自分自身への審判だった。

 期待はいつの間にか日常に削られ、

 気づけば誰も手を差し伸べてくれない現実だけが残っている。


 サビで繰り返される「Memories」という響きは、

 優しい思い出の呼びかけではない。

 むしろ過去との決別宣言だ。

 夜空の星の光のように、見えているのはもう死んだ光。

 美しくても、触れることも、取り戻すこともできない。

 それなら――もう手放すしかない。


 中盤の日本語パートは、世代交代の必然を突きつける。

 新しい時代は前だけを向き、振り返ることはない。

 自分もまた「思い出の中だけで生きる過去の人」にはならない。

 これは他人への言葉であり、自分自身への強い命令でもある。


 そして、あの一言がくる。

 怒鳴り声でも、泣き叫びでもない。

 まるでページを閉じるように、淡々と――

 しかし確実に全てを断ち切る刃のような響き。

 それは「もう、終わりだ」という意思表示であり、

 同時に「私はもう自由だ」という解放の合図でもあった。


 私にも、忘れられない関係がある。

 何度も「手放そう」と心の中で繰り返し、

 現実では揺れ動き、また戻ってしまう。

 けれどある日、同じように静かにその言葉を心の中でつぶやいた瞬間――

 涙も震えもなく、ただ静かに。

 ああ、やっと自由になれたんだ、と気づいた。


〈Memories〉は懐古ではない。

 執着でもない。

 これは宣言であり、再生の合図だ。

 聴けばきっと気づく――

 手放すことが、こんなにも爽快だと。

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