お昼寝したいのに主人公が爆散したからできません ~モブだけでも世界は救えるのか~
サイリウム
1:主人公は死ぬもの
「あぁ何もしなくていいの最高……!」
村の中にある原っぱで寝転んでみれば、どこまでも続いてそうな青空ひとつ。
転生した時はどうなるかと思ったけど、村長の娘の身分マジ最強。仕事しなくていいのほんと楽! リラックスしすぎて大地に根付いちゃいそう……!
あ、ども。この世界では『カーチェ』って名前を貰った幼女です。5ちゃい! よろしゅう!
前世の私はいわゆる社畜ってやつで、限界ギリギリまで絞られてたんです。このままじゃマジで死ぬな、って状況だったんですけど疲労のせいか判断力が極限まで落ちていて、逃げ出すことも出来ずにそのまま過労で死んじゃったんですよねぇ。んで気が付いたらこっちに転生してたんですよ。
(それが学生時代やりこんでたゲームとか、凄いよねぇ。)
確か『天帝のアバンギャルド』とかいう奴、天アバとかよく略されてたっけ。
世界を統べる天帝としての運命を背負った主人公が世界を救うために魔王とか邪神とかと戦うRPGもの。正直タイトルがちょっとアレだけど、ストーリーは結構いい上に作りこまれたオープンワールドと豊富なサブクエスト、3Dでグラフィックも良好で音楽もヨシ。しかも周回プレイにも対応したマルチエンドだったから結構やりこんでたのは覚えてます。
とまぁここまで語ったけど、私。何かシナリオに関係する様なキャラに生まれたわけじゃないんですよね。
(そもそも主人公は男ですし、私幼女-。)
この身は主人公が生まれ過ごした村の村長、その娘です。
作中にモブとして描写されたことはあれど、専用セリフすら存在しないキャラクター。どれだけ話しかけたとしても定型文しか返ってこないのが私です。もし自身がゲーマーとかだったら悔しがりそうな立場なんですが……、こっちとしては大歓迎。だってあのゲーム普通に戦闘とか沢山ある奴なんですよ? 普通に死ぬときゃ死にますし、とっても危険な主人公とかその周りに成りたいわけないじゃん。
いくら前世遊びこんだとしても、同じ目に合いたいかと聞かれれば別なんですよ。
(それに。“村長”ってすごく良い身分なんですよねぇ、えへ~。)
貴族様みたいな身分の高さはありませんが……、村長って言ってしまえば地主なんです。
確かに正確な持ち主は統治者である貴族なんですが、お貴族様はお貴族様でお忙しい。そのため代わりにその村の統治や管理を任されるのが、村長になります。んでそのお貴族様が求めてるのは、毎年の税金と戦時などに求められる人手だけ。それさえ出してしまえばマジで好きにしていいのです。
(つまり実質的な統治者!)
今世のパパやママの様子を見ている限り、人間関係の整理や税を絞り過ぎないようにする調整など大変そうではありますが……、毎日あくせく働いてるわけじゃありません。
分類的には農民ですが、毎日田畑に向かう必要はありません。だって人を動かす立場なんですもの! 村人たちから反感を買わないように動いたり、直属の上司であるお貴族様にへこへこしなければならないのは確かですが、前世の私みたいに過労死する可能性はゼロ! 世襲が基本なので毎日寝てれば次が私がその立場です!
というか他の家の子供と私の扱いを考えればその差は一目瞭然! 他の子、それこそ主人公は毎日親の手伝いをしなければ酷く怒られてしまいますが、私は毎日好き勝手お昼寝してても何も言われないのですから!
(めーっちゃいい立場ですよねぇ! あはー!!!)
……まぁでも、“この世界”自体があんまりよくないんですよねぇ。
生まれは確かにかなり良い方なのですが、この世界。いやこの世界の元? とも言えるゲーム。天ヤバ自体が結構過酷なのです。傍から見ればよくある剣と魔法のファンタジーで、魔物とか魔王が出てきてそれと戦うって話ではあるのですが……。
「放置してたらバンバン人が死にますし……。主人公を輩出する村、格好の的なんですよねぇ。」
まず魔物ですが、これが結構厄介なのです。普通に人より強いですし、何より数が多いし種類も多い。この系統の作品でよく見るゴブリンやオークなどがいて、人を文字通り食い物にしてくるのが彼らです。一応この村も丸太の防壁で守りを固めてはいますが、死ぬときはあっさり死ぬでしょう。
んでその魔物ですが、そんなにおつむはよろしくありません。気を付けて行動し、定期的に冒険者や傭兵を雇って魔物を間引きしておけば問題ないのですが……。物語が始まり主人公が頭角を現す頃になれば、『魔王』が動き始めています。
(原理は結局作中でも語られてなかったですけど、あっちは魔物を思うがままに動かす力があるみたいなんですよね。んで主人公が明確に魔王と敵対すれば……。)
その報復にドバーっと魔物がこの村に流れ込んできて、みんなお陀仏、ってことになります。
ゲーム内でもその辺りは詳しく描写されていて、サブクエストを回収せずにどんどん先に進んでいたらなんか故郷が消し飛んでた、とかよくあった話です。こっちとしては溜まったもんじゃありませんが……。周回プレイしたおかげでフラグとかその辺りは既に把握済み。こっちで上手~く誘導すれば何とかなるでしょう。
あ、勿論私が頑張って何かするって気は一切ありません。
だって前世死ぬほど働かされたら、今世は死ぬまでゆっくりすると考えるのが普通でしょう? 魔物の慰み物にされながらご飯エンドとか嫌ですし、死ぬのであれば老衰一択。というわけでちょうどいい感じに主人公を『サポート&助言』して働いてもらう必要があるんですよねぇ。
(アレですねアレ。主人公にはついて行かないけど、話しかけたら物語のヒントとかレベリングに良い狩場とかを教えてくれるお助けキャラ。それ目指してるんですよ。)
私の願望はお昼寝一択ですが、寝過ぎたら体を壊しますし夜に寝れません。だから適度に面倒じゃない仕事ってかんがえたら、その辺りなった感じです。
というわけで最低限度の労働として、今後に向けた布石は既に打ち始めています。時間経過によって記憶が薄れないように覚えていたイベントはもう全部紙に書き起こしてますし、村長の娘の権限でたまにですが仕事中の主人公を連れ出して彼の好感度稼ぎも実行中。
そのせいでなんか両親から『あの子好きなの?』みたいなこと聞かれるようになりましたけど……。ま、順調でしょ。周囲の微笑ましい視線はちょっと面倒というか、勘違いされてるなぁとは思いますけど、今後世界が詰むよりはマシ。普通に話せる友達みたいな関係に出来てますし、これ維持する感じでやっていくことにしましょ。
まぁそもそも……。
(主人公くんのヒロインと言えばこの国の王女サマですし。わざわざ好きでもない奴の恋路を邪魔するのは、ねぇ?)
私の目標は『死ぬまでゆっくりする』。これは主人公の近くでは絶対に成り立つことはないものです。
ゲームでは物語として楽しんでいましたが、彼の周囲にはいくつもの危機が転がり込んできます。一応友人ではありますし、彼が死ぬとこっちが詰むので応援こそしますが、隣で一緒に戦うだとか。協力するとかは一切ないです。だって危ないですし、面倒です。主人公とその仲間たちに任せておけば何とかなりそうなことに首を突っ込むほど私は暇じゃないんです。お昼寝で忙しいですし。
やるとしても彼らが死なずにシナリオクリアできるように助言するぐらいしかやりたくないです。
彼への恋愛感情は0ですし、そもそもモブなので強さもお察し。だから主人公は適当に王女とくんずほぐれつしとけばいいんです。あとそうしてくれたら物語終了後この村に帰って来ることはないでしょうし、こっちとしてもその方が都合がいいんです。魔王とか邪神を倒せるぐらいに成長した主人公とか劇物以外の何物でもないですからね……。
「んー、まぁそんな感じですかねぇ。」
軽く呟きながら、空を見上げます。
全般的に主人公に頑張ってもらって、私はたまーに助言してあげる。そしたら終焉の危機は未然に防がれて、世界はずっと平和に。世界を滅ぼせた魔王とか邪神よりも強い主人公の扱いに関して色々もめそうですが、王女と恋仲に成ってくれれば問題が起きるのは王都の中でだけ。つまり私には関係ない話です。
「両親から村を受け継いで、適度に働いて残りはずっとのんびり。そう考えたらあんまり悪くない世界なのかもですねぇ……。」
そんなことを考えながら向ける視線の先には、汚染されていない透き通った空と真っ白な雲。
こんなに綺麗な自然を眺めていると、やっぱりお昼寝したくなってきますよねぇ。ふわぁ、昨日主人公と話しましたし……、今日はもういいかな。
だって彼。やっぱり男の子なのかちょっと元気が良すぎる時ありますし、女の私に良いところ見せたいのか変にやる気になって危ない事したりするんですよねぇ。こっちの中身は大人なんで気持ちは分かるんですが、幼さゆえの激しさがあって、ちょっと相手するの面倒な時あるんですよねぇ。
同じ村にいますし、原作開始まで10年も時間があります。村の中を出歩けば顔をほぼ毎日顔を合わせますし、わざわざ今日もお話に行く必要は……。うん、無いかな。
こんなにいいお天気なのです。お昼寝には最適、むしろお昼寝しなきゃ大自然に失礼というもの。
(寝転がってる草のベットもいい感じですし、晩御飯の時間までもう寝ちゃ……。)
そんなことを考えていると、寝転がっていた地面から感じる何かが走り寄って来る振動。軽くそちらの方に視線を向ければ、何故か自身の母親。今世のママが焦りながらこっちに走ってきています。
「カーチェっ!」
「ふわぁ……、どったのママ? 魔物でも来た?」
「違うの! ルール君が!!!」
おぉ、主人公君のお名前。どしたの? なんか怪我したり?
あーでも。あの子『天帝の加護』みたいなスキル持ってるから、そうそう変なことには……。
「こ、粉挽き小屋の事故に巻き込まれて……!」
「……も、もしかして。爆死?」
青い顔しながら、こくんと頷くママ。
あーそう、爆死しちゃったかぁ。まぁ小麦粉ってすごく引火しやすくて、粉塵爆発が起こりやすい物体みたいですからねぇ。前世で中世の粉挽き小屋は滅茶苦茶危険だった、って何かで見ましたよ。へー、それで爆散しちゃったかぁ。
……は?????????
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