第26話 発酵食品と心の安定

リナの感嘆に、ミサキはにこやかに笑い、リナに温かいお茶を淹れてくれました。


「ほら、お茶でも飲んでいき。体、冷えとるやろ」


リナは、ありがたそうに湯呑みを受け取りました。その湯気から立ち上る、優しいハーブの香りにホッと息をつきました。


「冬はな、体が冷えやすいから。このお茶は、風邪の予防にええんや。エキナセアいうて、免疫力を高める働きがあるんよ」


ミサキはそう言って、台所にある自家製の梅干しや、漬物樽を指差しました。「この味噌も、漬物も、みんな『発酵』の力でできとるんや」「薬膳の世界ではな、発酵食品は『脾(ひ)』と『胃』を強くするって言われとる。胃腸を元気にして、消化吸収を助けるんや」


リナは、興味津々にミサキの話に耳を傾けました。「でも、なんで胃腸が元気だと、体にいいんですか?」


ユイが、リナの代わりに答えます。「都会では、ストレスで胃腸が弱って、食べても栄養を吸収できていなかったんだって。お母さんの薬膳料理を食べ始めて、胃腸が元気になったら、体も心も元気になっていったんだ」


ミサキは、ユイの言葉に頷きました。「そうや。体はな、食べたもんでできとる。でも、どれだけええもん食べても、吸収できんかったら意味がない。発酵食品は、食べもんを分解して、体に取り入れやすい形にしてくれる。それに、腸と脳は繋がっとるからな。腸が元気やと、心も穏やかになるんや」


ミサキは、さらに続けます。「発酵はな、微生物たちが命を『分かち合う』ことで起こるんや。人間が一方的に作るんやない。微生物たちに、ちょっとだけ手伝わせてもらうんや。それが、この町に根付いとる『分かち合う智慧』の、もう一つの形やな」


ユイとリナは、ミサキの言葉に、改めて感銘を受けました。それは、ただの調理法ではなく、自然の摂理と共存する、この町の「生き方」そのものだったのです。


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