【第2章 第六話「微かな光」】



その日、

少年は、朝早くから山に向かった。



辺りをキョロキョロと見回しながら、山中を歩く。



「こんなにたくさん木があるのに……

なかなか無いもんだな」



太陽が、真上近くになった頃、

少年は、ちょうど手の届きそうな箇所から生えた

一本の木の枝に、目が止まった。


「お! こいつが良さそうだ」


家から持ちだしたノコギリを取り出し、

その枝を切り落とす。


少年は、落ちた枝を拾うと、

振ったり、木に叩きつけたり、強さを確かめる。



「よし! まっすぐだし、こいつにしよう!」



少年は、切り落とした枝を手に、

家に向かって走り出した。


家に着くと、

爺さんが、昼飯の仕度をしていた。


「もう、出来るぞ!」


少年は、


「後で食べるから!」


と慌てた様子で、道具箱からナタを取り出し、

また、外へ出ていった。



──その日の午後は、風が気持ちいい日だった。



凛は、川べりに腰を下ろし、

足を川に浸して、水の感触を楽しんでいた。



「ふふっ、気持ちいぃ」



″バチャバチャッ″


水面をたたく音も、心地いい。



「おーい!」



遠くから、声が聞こえた。


──誰なのかすぐにわかった。


走る足音が近づく。



「お兄ちゃんっ!」



ハァハァと息を切らしながら

少年が言う。


「ちょっと、立ってみろよ!」


「えっ?」


凛は、不思議に思いながらも、立ち上がる。


少年は、凛に何かを握らせた。



「うん!ちょうどいいな……どうだ?」



渡されたのは、木の棒のようだった。


凛は、腰の高さくらいの木の棒を握り、

棒の先を地面につけてみた。



──あれ? なんか……怖くない。



「お兄ちゃん……これは?」



少年が答える。


「杖だ! お前の目の代わりだ!」


「……杖?」


「ほら、歩いてみろ!」


凛は初めて、杖を使って歩いてみた。


杖の先から感じる石の大きさや、

むき出しの土の柔らかさがわかる。



「……お兄ちゃん! わかるっ、わかるよ!」



少年は、嬉しくてたまらなかった。


凛の笑顔を見て、涙が出そうになる。


「こ、これで……

ちょっとは歩きやすくなるだろ?」


涙をこらえて、少年は言った。



「ちょっとじゃないよ! すごく、すごく、すっごくだよ!」


「お兄ちゃん! ありがとう!」



凛は興奮した様子で、少年からもらった杖を頼りに歩き回った。


少年は、その様子をじっと見つめ、

なんとも言えない気持ちを、噛みしめていた。



──その時、遠くから声が聞こえた。



「おーい きんたー!」


少年が、声のする方を見ると

爺さんだった。


「昼飯も食わずに、こんなところにいたのか! 早く飯食っちまえ!」


「……きんた?」


不思議そうな顔の凛。


少年は慌てて、


「あ、あの爺さん……だ、誰かと間違ってるみたいだなっ! 」


「お、おれも帰んなくちゃ!」


急いで立ち去る少年。



凛は、不思議そうな顔をしながらも、

少年から貰った杖を、胸にギュッと抱きしめた。



──お兄ちゃん、ありがとう



「凛……見えてるみたいだよ……」




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