桜島

桜島と聞いて梅崎春生と紐付ける人間はそうそういない。梅崎春生は俺から見て相当むちゃくちゃな作家だ。昔はいたんだなそんな作家が。何もそんなストロングスタイルの作家が受ける世の中ではない。自分も時代遅れだと分かってはいる。しかし彼の書いた小説は日本の例えば私小説のある種の伝統的なものが垣間見えてはいるが決してそうではない。梅崎春生のエピソードに彼は精神錯乱がたたあったようで学生時代に下宿先の女将さんを椅子かなんかで散々ぶん殴った。という逸話がある。本当に非人間的なところが、そいつの魅力だ。それは悪魔じみたものだ。しょうがない。俺の中では作家はそんなサイコなところがある。彼が書いた晩年の作品に『幻化』という小説がある。アル中になった作家本人が精神病院を抜け出し、阿蘇にいく話だ。調べてみると1965年出版されている。書いている内容も現実なのか幻想なのか訳がわからない。ちなみに梅崎春生は『ボロ家の春秋』という作品で直木賞をもらっている。『幻化』を発表後すぐ死んでいる。何度もいうが、そんな作家を称賛しているわけではない。時代遅れで、もう、読まれなくなり、埋もれて、それでもなお自分の中では生き生きと輝いている。自分はいわゆる戦後派の作家が好きで、その中でも梅崎春生は群を抜いている。戦争が終わりに近づく頃、梅崎は兵隊として従軍し、壮絶な体験をしたようだ。彼は決して、その従軍体験の経験した中で壮絶な本質を書いてはいない(実際に戦地に赴いてはいない)。それは梅崎文学好きの連中にとっては永遠の謎だ。多分だが、従軍した上官(年下)からの苛烈すぎる暴力を受けたのではないか?と考えられている。しかし、大岡昇平にしてもそれ以上に苛烈な経験をしている作家も多くいる。しかしだ。大岡昇平は真正面に、あの第二次世界大戦を全て描ききろう、死んだ名もなき兵士たちの全てを書き込みたい。という気合がみられる。それはそれで素晴らしいし、彼の作品の『野火』にしても『レイテ戦記』にしてもそれは窺い知れるし、心撃たれる。しかし、梅崎春生はいわゆる軍隊に入り、自分よりも年下の上官からの「いじめ」にあったことを書くことができなかった。そこに彼の魅力がある。どうしてもできなかった。人間クサイ。書かない事もまた文学なのだ。

そして作家となりアル中になり50で死んだ。


彼の奥さんは雑誌の編集者で彼をみた時、敗戦し、空襲を受け、滅茶苦茶になった東京のバラックの片隅でカストリやバクダンなどを飲みひたすら吐き続ける彼を見て介抱し、結ばれたそうだ。


では股。

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