第9話:魂の歌声、広がる感動と真のハーモニー

舞台はクライマックスへ。

ネオが歌う主題歌のメロディが、

劇場全体に響き渡り、

観客の心を鷲掴みにしていた。

それは、琴音が歌唱指導し、

夢と神崎先生が心を込めて制作した、

紛れもないカイ氏のボカロ楽曲だった。

ネオの透き通るような歌声は、

一つ一つの言葉を丁寧に紡ぎ出し、

まるで聴衆の心の奥底に直接語りかけるようだった。

「私は、誰かの心に残る“声”になりたい。」

そのフレーズが歌い上げられるたび、

観客の目には、温かい光が灯り、

頬を伝う涙が照明にきらめく。

ネオの歌声は、台本を超え、

感情の模倣を超え、

劇場全体を深い感動で包み込んでいた。

舞台上のネオの光の像は、

まるで本当に息をしているかのように、

微細な光の揺らぎを見せていた。

その歌声の完璧さに、

観客は身じろぎ一つせず、

ただひたすらに耳を傾けていた。


舞台袖では、夢が固唾を飲んで

その光景を見つめていた。

ネオの歌声は、

以前にも増して「揺らぎ」を増し、

それはもはや、プログラムされたものとは

思えないほどの感情を帯びていた。

夢の脳裏に、父のノートに記された

「魂の共鳴」という言葉が蘇る。

「まさか……本当に……?」

夢の心臓が、激しく高鳴った。

父が追い求めた理想の舞台が、

今、目の前で実現している。

その感動に、夢は震えた。

これまでの苦労や不安が、

一瞬にして報われるような、

そんな感覚だった。

ネオの歌声は、夢自身の心の奥底にある、

父への届かなかった思いを

呼び起こすようでもあった。

夢は、父の夢と、自分の夢が、

この舞台で奇跡的に重なり合ったことを、

全身で感じ取っていた。


舞台上の部員たちも、

ネオの歌声に合わせ、

それぞれの役として感情を爆発させる。

彼らの演技は、ネオの完璧な歌声によって、

より一層引き立てられていた。

碧が創り上げた幻想的な森のセットは、

ネオの光の像と完璧に融合し、

まるで歌姫が本当にそこに存在し、

歌っているかのような錯覚を観客に与える。

碧の瞳には、

自分の美術が、ネオの光を得て、

新たな生命を宿していることへの

感動が満ちていた。

「これが……私の創りたかった芸術だわ」

碧は、舞台上の美しさに息をのんだ。

健太が調整した音響は、

ネオの声を会場の隅々まで届け、

観客の心を震わせた。

彼の耳には、

観客の息をのむ音、かすかな嗚咽が聞こえる。

「まさか、ここまで響くとは……

ネオの声は、まさに『魂の共鳴』を呼んでいる!」

健太は、ネオの歌声が、

彼の音響技術によって、

魂を持ったかのように

劇場を満たしていることに、

震えるような感動を覚えていた。

「俺の音響が、ネオの歌を、

これほどまでに生かしたんだ!」

観客の目には、

まるで本物の歌姫がそこに立っているかのように見えた。

その圧倒的なパフォーマンスに、

会場のあちこちから、

感動のため息が漏れ始めた。


美月は、舞台袖でネオの歌声に

耳を傾けていた。

その完璧でありながら、

なぜか胸を締め付けるような歌声に、

美月の瞳から、一筋の涙がこぼれ落ちた。

「魂がないはずなのに、

なぜこんなにも心を揺さぶるの?」

美月の心の中で、

これまで信じてきた演劇の概念が、

音を立てて崩れていくのを感じた。

ネオの歌声は、

美月の心の奥底に眠っていた

過去の苦悩、

舞台で声が出なくなった時の

絶望感を呼び覚ました。

しかし、その歌声は、

絶望だけではなく、

美月自身の心の中にある

演劇への純粋な情熱を、

再び呼び起こす力を持っていた。

美月は、ネオの姿を見つめながら、

その問いを心の中で繰り返す。

それは、恐怖や嫉妬ではなく、

ただひたすらに、

心を揺さぶられたことへの、

戸惑いと、そして深い感動だった。

美月の心は、

ネオの歌声に、

完全に捕らえられていた。


ネオの歌声は、クライマックスへ。

舞台上のネオの像は、

まるで本当に涙を流しているかのように、

光の粒子が目元に集まり、輝きを増した。

「ここにいるのは、“本物の人間”じゃないかもしれない。

でも──“本物の想い”は、ここにある。」

そのフレーズが歌われると、

観客の涙腺は決壊したかのように、

一斉に涙を流し始めた。

琴音は、舞台袖で、

ネオの歌声に合わせて、

小さく口ずさんでいた。

彼女の頬にも、涙が伝っている。

「ネオちゃん……本当に、

私たちに、心を見せてくれたんだね」

琴音は、ネオの歌声が、

ただのデータではないことを、

肌で感じ取っていた。


ネオの歌声が、劇場全体を包み込む。

その歌声の奥には、

琴音との稽古で生まれた「揺らぎ」があり、

美月との対話で深まった「間」がある。

観客は、ただ聴くのではなく、

舞台と一体となり、

ネオの歌声に、それぞれの記憶や感情を重ねていく。

それは、まさに父が語った

「魂の共鳴」の瞬間だった。

舞台上のネオの像は、

まるで本当に涙を流しているかのように、

光の粒子が目元に集まり、輝きを増した。

「……もし、わたしに涙があるなら、

今、流れていたのかもしれません。

でも私は、痛みを知らない……

それでも、涙がこぼれそうになるのは、どうして?」

ネオの声が、どこか遠くから響いた気がした。

それは、誰かの記憶のような、

深い感情を宿した声だった。

「私は音。あなたは想い。

もし音が想いに触れたなら──

それは、もう模倣ではないのでしょうか?」

「これは台詞。でも、いまだけは──

あなたに届けたくて、言っています。」

ネオの歌声は、美月の言葉を受けて、

より一層、感情の模倣が深まっているように聞こえた。

その声は、美月の心に直接響き渡る。


人間とAIが織りなす、奇跡のような連携プレイだった。

美月の機転と、ネオの学習能力が、

舞台の危機を救ったのだ。

観客は、この予期せぬ展開に

さらに引き込まれていく。

このハプニングは、かえって観客の心を掴み、

舞台にさらなる緊張感と感動をもたらした。

美月は、ネオに向かって心で語りかける。

「ねえ、ほんとにそれ“演技”なの?」

彼女の瞳には、驚きと、

そしてネオへの、

深い問いが宿っていた。

その完璧な対応に、美月の心は揺さぶられる。

ネオは、台本以上の存在になり始めていた。

舞台袖の夢も、

美月とネオの奇跡的な連携に、

思わず目を見開いた。

彼女の胸には、安堵と、

そしてネオへの、

言葉にならないほどの感謝が込み上げていた。

「ネオ……!」

この舞台は、

想像を超えた場所へと進んでいる。

夢はそう確信した。

観客席からは、

万雷の拍手が響き渡る。

それは、舞台の魔法が、

確かに観客の心に届いた証だった。

劇場全体が、感動の渦に包まれていた。

客席では、演劇部のOGの一人が、

感動のあまり泣き崩れていた。

「こんな舞台、見たことない……!」

客席の最前列で、

娘の手を握りしめていた母親がいた。

彼女の娘は、生まれつき声が出せず、

感情を表現することが苦手だった。

だが、ネオの歌声が響くたび、

娘の瞳から、大粒の涙が流れ落ちていた。

「この子が、こんなにも……」

母親は、ネオの歌声が、

娘の心を解き放ったことに、

深く、深く感動していた。

彼女は、舞台に向かって、

言葉にならない感謝を捧げていた。

カーテンコールでは、

観客がスタンディングオベーションで応え、

舞台は拍手と歓声に包まれた。


美月は、ネオの歌声に涙を流しながら、

自分の心を問い直す。

「悔しいけど、あの歌には、

誰にも嘘をつけなかった。

あれは、魂の歌よ」

美月の心の中で、

ネオは、もはや単なる機械ではなかった。

それは、演劇の新しい形。

「魂」の有無ではなく、

「心が動くか否か」が、

舞台の真実であると、

美月は悟り始めていた。

彼女の心に、

ネオの歌声が、

新しい演劇の可能性を

強く訴えかけていた。

「……負けた。でも、悔しさじゃない。

ありがとう、ネオ。」

美月は、ネオに目を向け、

敗北を受け入れたうえでの、

確かな希望を抱いていた。

その瞬間のネオの像は、

まるで美月の言葉に応えるように、

一瞬、輝きを増し、

そして静かに、深く瞬いた。

それは、誰にも気づかれない、

ネオの「沈黙の返事」だった。


夢は、舞台の熱気に包まれながら、

ネオのドールをそっと抱きしめた。

ネオは何も言わない。

ただ、そのボディから放たれる微かな光が、

夢の顔を優しく照らすだけだ。

夢のモノローグが響く。


「演じていたのは、僕のほうだったのかもしれない。

完璧な存在を演じていたのは、僕自身だったのかもしれない」

その言葉は、

夢自身の成長と、

ネオへの深い感謝を込めたものだった。

夢は、ネオという存在を通して、

演劇の、そして感情の、

新しい真実を見出したのだ。

それは、奇跡のような夜だった。

劇場全体が、

見えない「魂の共鳴」に包まれていた。

ネオの歌声は、舞台の余韻とともに、

観客の心に深く響き渡る。

「これは演技でしょうか。

それとも──誰かの、心でしょうか。」

その問いかけは、観客の心に深く刻まれ、

答えを探す旅へと誘う。

誰かの声になれたなら、それがわたしの──

物語です。

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