八日一殺
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「善人はなかなかいない」
~フラナリー・オコナー~
恨み、妬み、嫉み、怒り、恐怖、義務、欲、女、男、快楽、猟奇、
今日も何かの理由で、いや理由がなくても
誰かが誰かを殺している。
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小さな地方都市で最近、子供が行方不明になる事件が多発していた。
警察は事件、事故の両方で捜査を行ったが、手がかりもなく捜査は難航していた。
身代金目的の誘拐でもなく、警察は不明の児童5人の公開捜査と
行方不明の情報を求めた。
もう秋にさしかかろうとしていた午後3時頃
女の子は一人で下校していた。
学校では一人で帰宅することは禁止になっていたが、
女の子は親友が体調崩して休んでいたことと、
その子以外の友達とは帰る方向が別だったので
一人で帰ることにした。
少女の帰り道は比較的人通りの多い場所を通るので
本人も心配はしていなかった。
少女はいつも下校時に友達と寄る駄菓子屋に寄った。
道草は禁止だったが、暗黙の了解で学校側も目を瞑っていた。
それに子供が行方不明になる物騒な事件が相次いでいるため、駄菓子屋はいわば下校時のセーフティーネットであり、駄菓子屋の店主はこのあたりの監視役として機能していた。
少女が着く頃には、そんなに親しくはないが知っている子たち4、5人が店先にいた。
狭い店内にさらに4人いて子供達の元気な声が響いていた。
小学生ばかりではなく、若い親と手を繋いで連れられた保育児がいたり、
まだ歩けない子供もおんぶ紐にくるまれたり、ベビーカーに載せられたりしてやって来ていた。
いつの間にか店先はずいぶんと
若い父親がおんぶ紐の子供に何かを話しかけながら、楽しそうに店内を指差していた。
少女はその方向を見た。
ひもくじが見えた。
若い父親は店主にお金をわたし、ひもくじを引いてみた。
小さな人形のおもちゃが当たった。
若い父親は背中の多分まだ何も理解できない子供に景品のおもちゃを見せてはとても喜んで店を出て行った。
少女は知っている子と少し話した後、いつも買うスナック菓子と、キャンディを買うとバイバイと言って店を出た。
商店街を通り、いつもの道、いつもの店の前を通って行った。
夏の暑さも過ぎて、心地いい風が吹いていたが、次第にそれはヒンヤリとした空気に感じた。
大好きな友達もいないせいか、心なし寂しくなった。
少女は早く帰りたいと思い、いつもとは別のルートで帰ろうと考えた。
商店街の路地を左に折れると自宅への近道になる。
少女は路地に入った。
そこは住宅が密集した古い街並みで、少しも寂しさはなかった。
玄関先で立ち話をしている中年女性たちもいれば、何をするわけでもない老人が散歩をしていたりする。狭い路地だが、自転車も駆け抜ける。
路地を抜けると大きな車道に出た。
もう少しで、少女の家に着くところだった。
と、突然、
「お嬢ちゃん」
と後ろから声がした。
少女は振り向いた。
すると、
それはさっきのおんぶ紐で子供をおぶっていた若い父親だった。
若い父親は少女に近づいてきた。
若い父親は少女に目線を合わすためにしゃがんだ。
少女は後ろにおんぶされている子供を見たがった。
自分も弟か妹が欲しかったから、自分より小さな子供が好きだった。
少女はおんぶされている子供の顔を覗き込もうと首を横にかたむけながら少し前のめりになった。
若い父親はにっこり笑って、顔を、おぶっている子供の後ろ方に向けた。
「このお姉ちゃん?」
と子供に何かを訊たずねている感じだった。
少女は子供の顔を見て、なんかヘンだな。と思った。
「…お嬢ちゃん…、で…、いくつになるのかな…」と若い父親は訊きいた。
少女は我にかえり、若い父親を見た。
父親は笑顔を絶やさず、ニコニコしていた。時々後ろの子供の方を振り向いたりした。
「うん、11歳」
と少女は答えた。
若い父親はもう一度後ろの子供に顔を向け、何やらぼそぼそと誰かと何かの連絡をとっているように見えた。
少女はもう一度、子供の顔を覗き込んだ。
声が出なかった。
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背中にいたのは子供の人形だった。
背中にいたのは小型カメラとマイクが埋め込まれた子供の人形だった。
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若い父親は少女に向かってこう言った。
「いや、いくつ?というのは、年齢のことじゃなくてね。」
少女はハッ!とした。
そして若い父親は続けた。
「きみが、6人目。だということ」
あの駄菓子屋で指を差していたのはひもくじではなくて自分だったと、この瞬間、気づいた。
そう言うと若い父親は少女の口をふさいで抱き上げ、瞬時に、止めてあるワゴン車の後部座席に入った。ワゴン車は素早く、そして静かに走り出した。
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八日一殺、終。
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