SF舐達麻

不慮

プロローグ 2209年の君へ

もともとはデントコーンを栽培する農地だった。
いまやその一帯──ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパン・クマガヤの農場区画──は、畳のように隙間なく敷き詰められた太陽光発電装置──いわゆるメガソーラープラントへと姿を変えていた。


プラントの一角では、地面が皿状に大きく掘られ、その内壁にびっしりとミラーが敷設されている。ミラーを支える背面の機構は太陽の位置を常に追尾しており、キシキシと金属の擦れる音をわずかに響かせながら、絶えず向きを変えていた。


パラボラアンテナ状のその装置は、空中の一点へと光を集束させるためのものだ。その焦点には、両端だけがすぼまる形状に設計された22面体の箱が宙に浮かんでいる。

骨格はステンレス製のパイプ鋼、外皮はビニール。どこか生物的な、しかし同時に構造体としての冷徹さも孕んだ、奇怪な存在だった。船のようでもあり、怪物のようでもあった。


箱の内部には、本来ミラーの代わりに穴に設置されていたはずの太陽光パネル──そのほぼ二倍におよぶ枚数のパネルが格納されていた。パネルは内部で立体的に構成され、幾何学的かつ錯綜した配列をなして、複雑に、そして精緻に固定されている。


パネル同士のあいだには、ミラー、あるいはプリズムのような装置も挿入されていた。

これは、ひとつの実験だった。
地上に、単純にパネルを敷き詰める従来の方式に代わり、より高効率で発電可能な構成を模索するための試み──中空に浮かせることで、地表以上の発電面積を稼働させる、壮大な装置だった。


それは風船にも見え、怪獣にも、あるいは前衛的なアート作品にも見えた。
やがて人々は、その形からプラントから突き出したその異形の構造体を、「蕾(バッズ)」と呼ぶようになった。


農場を取り仕切るのは、かつてDELTA9KIDと呼ばれた男だった。


(挿絵↓)

https://kakuyomu.jp/users/f____ryo/news/16818792436979504810

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