第2話 銃器適正テスト

銃にも、向き不向きってのがある。

連射を制御する反射神経、スナイプに必要な集中力、重火器を扱う腕力と持久力――


まるでそれは、楽器を選ぶみたいなもんだ。


でも違うのは、間違えたら死ぬってことだ。


───


始業式の翌日、俺たちは再び訓練場に集められた。


「全員揃ったな」


姿を現したのは、昨日の戦闘技術科教官――鷹森 梓。相変わらず冷徹な目をしていた。


「本日は“銃器適正テスト”を実施する。目的は、お前らに最も適した銃種を見極めることにある」


鷹森はそう言い、後ろにある金属製のキャビネット群を示す。そこには、拳銃、サブマシンガン、アサルトライフル、ショットガン、スナイパーライフル、LMG、果てはミニガンのような異常なものまで、あらゆる銃器が整然と並べられていた。


「このテストは競争ではない。だから過度に気負う必要はない。ただし──」


彼女は一拍置き、俺たちを見渡した。


「自分を偽って出た結果で、配備される銃が変わる。今後半年間、授業で使うのは“今日選ばれた銃種”だ。つまり、ここで出た結果が、お前の戦い方の原点になる」


その瞬間、訓練場の空気がピンと張りつめた。


「各銃器はセーフティの上で整備済みだ。教官の指示に従って順番に試していけ。……不器用でも構わん。だが“手を抜いた者”は、見てわかる」


───


テストは、想像以上に丁寧だった。


構え方、反動の抑え方、リロード速度、スコープ越しの視界の安定性、複数ターゲットへの反応速度。まるでドライビングテストのように、1つ1つの動作をチェックされる。


「君、ARよりSMGのほうが手首の返しがいいね」

「ショットガンの反動に押されすぎだ。体幹が合ってない」

「セミオートなら集中力が生きる。指もブレてない」


教官たちが横につき、リアルタイムで助言をしてくれる。

中には、訓練中に「あー!この銃好きかも!」とはしゃぐ生徒もいた。


(なるほど……確かに“選ばせてくれる”んじゃない。身体で“見抜かれてる”)


俺もまた、複数の銃を試していった。

だが、どれも“俺の手”には合わなかった。反動が遅い、スコープがぶれる、装填が遅れる──違う、これじゃない。


「……これか?」


最後に試したのは、NXシリーズのハイエンドモデル。

俺の初日射撃に使用された、あのNX-P01の発展機種だ。


構えた瞬間、重みとバランスが手に吸いつくように馴染んだ。


1発目。

2発目。

3発目。

ターゲットに撃ち込む感覚に、迷いがなかった。


「……ARタイプの“精密型”。この反応速度と集中維持力、まさに銃器との相性が抜群だな」


テスト官の一人が呟いた。


「如月 白寿、君の適正はアサルトライフル(AR)、精密特化型と判断する。今後はこの系列を基本武器とし、訓練課程に入ってもらう」


───


適正テストを終えた俺たちは、訓練場から歩いて校舎へ戻るところだった。


「ふぅー、終わった終わった~!」


隣で大きく伸びをした朱音は、満足そうに笑っている。


「朱音はSMG(サブマシンガン)だったな。軽くて動きやすそうだったけど、あれ、ちゃんと当たるのか?」


「失礼な!こう見えて近距離なら百発百中よ?」


胸を張る彼女に、思わず苦笑いする。


「ま、当たればな」


「当たるよーだ。……でも、白寿ってやっぱすごいね。教官たちも驚いてたし」


「……いや、ただ慣れてただけさ」


俺は言葉を濁した。

本当は、ずっと銃のことだけ考えて生きてきた。

それしかなかった。


「ところでさ」


朱音がふと思いついたように言った。


「最初に配られた“ケース”、あれってさ、これからの授業でもずっと使うんだよね? 教官が言ってたじゃん。半年間の戦績とか記録も、それに紐付けられるって」


「うん。たぶん“個人戦闘端末”みたいなもんだろ。銃器データも自動で記録されてるらしい」


「ふーん……ってことは、私がコケた記録もずっと残るのかぁ……ははは……」


「それも実力のうちだな」


「やめてぇ!」


───


教室に戻ると、すでに「バレッドボード」の通知が届いていた。


【2日後:模擬戦形式訓練のお知らせ】


【参加対象】総合科全生徒

【形式】4〜5人小隊制チーム戦

【目的】連携・索敵・適正武器の実践的使用感の把握

【注意事項】安全装置付き訓練弾を使用。衝撃は実弾と同等。被弾箇所により「負傷」「戦闘不能」判定。


(いきなりチーム戦か……!)


その時、俺の後ろから声がした。


「如月 白寿くん、だよね」


振り向くと、銀縁メガネの男子が立っていた。

整った顔立ちに、隙のない物腰――一言でいえば、"デキるやつ"の雰囲気。


「俺は結城 颯真(ゆうき そうま)。このクラスじゃ珍しい、前線指揮志望だ」


「前線指揮……?」


「つまり、 “仲間を勝たせる”動きをするってこと。銃の腕も大事だけど、それ以上に、どこに立ち、どう動くかが重要なんだ。君も見てたよ。あの三発、完璧だった。だったら──俺と組まないか?」


唐突な提案だった。


だが、目を見てわかった。こいつは本気だ。


「俺と、お前。あとは朱音、それと――」


「ちょっと!話に入るなら一声かけてよねー!」


ぱたぱたと駆け寄ってきた朱音が加わる。


「どうせその話、模擬戦でのチーム編成でしょ? 私も入れてよ!SMGは撹乱と突破が命だからさー!」


「君が月宮 朱音か。なるほど、SMGの扱い、悪くなかった。なら──あと一人、スナイパーがいればバランスがいいな」


「スナイパー……誰かいたっけ?」


すると、教室の隅で、ひとり黙々とバレッドボードをいじっている少女がいた。


黒髪を後ろで結い、無表情で、まるで気配を消すように存在していた。


「彼女、水無月 蓮(みなづき れん)って言うんだ。昼のテストで、スナイパーライフルをフルマークで撃ち抜いた。多分……このクラスで一番、狙撃がうまい」


「あの子が……?」


俺は思わず見てしまう。


水無月 蓮は、ふとこちらを見た。

感情の読めない瞳――だけど、ほんの一瞬、興味の色が差した気がした。


ふと、彼女がこちらを見た。まるで、スコープ越しに心を覗かれたような、射抜くような目だった。


(これは……面白くなりそうだ)


こうして俺たちの小隊が、静かに動き出した。


そして、2日後。


俺たちは、最初の「実戦」を迎える。

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