マキナホライゾン 〜リベルテ・オブ・ガン〜

@hakuju0714

1章

第1話 入学。

この世界は自由だ。


ただし、"銃"を持てる者に限る。


でも自由には、"責任"ってやつがついて回る。

たとえば、引き金を引く自由。誰かを守る自由。そして……誰かを殺す自由。


俺の名は白寿。ここ〈学園群へヴリクシア〉ではそんなものがルールなんだ。


-------------


朝。俺はけたたましく鳴る目覚まし時計で飛び起きた。

今日は入学式。そう、俺が今日から通う、「国立ノヴァレクス高等学校」の。


この都市、「学園群ヘヴリクシア」では、銃の使い方まで教えてくれる学校が何校もある。

“特殊戦術後期中等教育機関”。法律にもそう書かれてる、れっきとした国公認の学び舎だ。


俺は今日から新入生。


朝の陽ざしが差し込む部屋の中、制服に袖を通し着替える。

初めて着る制服というものに興奮が抑えられない。


鞄を肩にかけ、扉を開ける。


「行ってきます。」


誰もいない部屋にその言葉が響いた。


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学校についた俺は、すぐに受付に行った。受付に行くと、アプリをインストールしてくれといわれた。


「バレッドボード」。これでは、成績・射撃・整備・提出物などを確認することができ、メール形式で情報が共有されることもある。


俺はバレッドボードをインストールして、書いてある紙のアカウントにパスワードとともに打ち込む。

新入生一覧を流す前に、俺の名前は載っていた。


「国立ノヴァレクス高等学校 総合科 1年A組 7番 如月 白寿」

あった。これだ。


総合科という名前がついているものの、それは1年生しかおらず、2年進級時に1年時の成績、個人のやりたいことなどを加味して希望学科になることができる仕組みだ。1年の間は初心者であってもとっつきやすい内容をたくさんの科目で行うため、自分の専攻したいものを選べるようにしてあるらしい。



「ここか。俺のクラスは。」

1-Aと書かれたドアの向こうから、ざわざわと声が聞こえてくる。

俺は深呼吸して、ドアに手をかけた。


すでに数人が集まっており、一番ではなさそうだ。

しかもそれぞれの机には、そこそこ大きめのケースが置いてある。


黒板にはそれぞれの席の番号が書かれていて、自分の席の場所がわかるようになっていた。


俺は自分の席へ歩いていき、すでに座っている前の席の女子に声をかけた。


「……あの、ここって7番で合ってるよな?」


男はちらりとこちらを振り返り、小さくうなずいた。


「うん、合ってるよ。私が6番だから、君がその席で正しいと思うよ。」


淡々とした返事だったが、どこか丁寧で、堅実な印象を受ける声だ。


「サンキュ。俺、如月 白寿。今日からよろしくな。」


「うん、私は風花 佑月(かざはな ゆづき)。よろしく!」


その目は、冷静で、全体を俯瞰して見ているような……そんな目。


「ご着席くださーい!」

背後のスピーカーから、明るい声が響く。

「これより、国立ノヴァレクス高等学校・総合科の始業式を開始します」

俺たちは自席に腰を下ろし、ざわめきが収まっていく。

だがその瞬間――。


パン!

何かが弾けた音と、女生徒の悲鳴が教室にこだまする。

その声をかき消すように、ガチャリ、と重たい足音が鳴った。


「――誰だ、ケースを開けて安全装置を解除しているバカは?」

声の主は、白い軍服を着た女だった。すでに後方に立っていたが、前に歩み寄っていく。


「すっ、すみません!ちょっと触っただけで……!」


声がした方を見ると、俺の斜め前の男子が立ち上がっていた。肩が小刻みに震えている。白い軍服の女教官を、明らかに恐れていた。


「甘えた言い訳だ。5秒以内に安全装置をかけケースに戻せ。できなければ没収だ。」

「その銃に入っている弾丸は練習用の完全非殺傷弾だから被害者は出ていないものの、銃や周囲の確認もせずに発砲するとは・・・」


「私はこのクラスの戦闘技術科教官、鷹森 梓。名は覚えなくてもいい。どうせ上に行けない奴は、すぐ消える」

鷹森 梓。元・特殊部隊出身。教官歴8年。 “教官殺し”の異名で知られる。

クラス中の空気が凍りつく。俺はこれが〈ヘヴリクシア〉だと、ようやく実感した。


「引き金の重さは命の重さと感じろ。その無駄な暴発が、味方や上官を撃ち殺す元になりうる。」

銃教育は、倫理教育と一対で成り立っている。そう教えられてきた。

「引き金の重さは、命の重さだ」――子どものころから何度も聞かされた言葉だ。


「……未熟なうちは、事故で済む。だが将来は、命取りになる。」

鷹森教官


「今から射撃訓練場に移る。ケースを持ってついてこい。」


足早に歩く鷹森先生についていくのに必死だった。


-------------


訓練場のコンクリートの床には、10メートル刻みで距離が書かれている。

それぞれにターゲットが自動でせり出してきた。


「1列に並べ。1人ずつ撃ってもらう。ルールは簡単だ――三発で、三発とも中心に近づけた者には加点。外したら減点。以上。」


鷹森先生はそう言い放ち、端から順番に撃たせていった。


「やっば……思ったより重いし、揺れる……」


「お前、トリガーに指かけたまま振るなって教わらなかったのかよ!」


ざわつく生徒たち。見たところ、初心者も多そうだった。


そして――俺の番が来た。


「次、如月 白寿」


(よし……)


俺は一歩前に出て、ケースを開ける。

中には、支給銃「NX-P01」が静かに収まっていた。

分解整備も済ませてあったため、わずか5秒で初期状態から射撃準備完了。


ターゲットの中心をしっかり視界に収め――引き金を引く。


三発の銃声が、間髪入れずに鳴り響いた。


沈黙。


数秒後、ターゲットがスクリーンに映し出された。


「……10点、10点、10点。フルスコアだ」


鷹森先生の目が、ほんの少し見開かれた気がした。


「面白い。次」


俺は銃を手早くケースに戻し、列の最後尾に戻った。


(やっぱり――俺は、"銃"なら負けない)


-------------


初めての射撃を終わらせた後、俺たちは教室に戻っていた。

その時、見ず知らずの女の子が話しかけてきた。


「ねぇ君、さっきのでフルスコア出してたよね?」

背後から話しかけてきたのは、明るい栗色の髪をボブカットにした、いかにも人懐っこそうな女の子だった。

制服の胸元には〈1-A〉の刺繍。俺と同じクラスらしい。


「ああ……たまたま、得意なんだ。」


そう答えると、彼女はぱあっと顔を輝かせた。


「やっぱり!すごいよね、あの距離であんな安定して当てられるなんて!」

「私、SMG派なんだけど、まだスコープの扱い苦手でさ〜……あ、私、月宮 朱音(つきみや あかね)!よろしくね!」


自己紹介に合わせて、軽く手を差し出してくる朱音。そのテンションに少し面食らいながらも、俺は手を取った。


「如月 白寿。こっちこそ、よろしく。」


朱音はにこにこと笑いながら、俺の隣の席に腰を下ろした。


「やっぱこの学校、面白そうだね。まだ始まったばっかだけど、なんかワクワクしてきた!」


その笑顔は、まるでこの世界がただの学園生活だと信じているかのように、無邪気だった。


でも、俺は知っている。

ここは銃で評価され、銃で競い合い、ときには銃で命を奪う――そういう場所だ。


だから俺は、朱音の明るさに、ほんの少しだけ救われた気がした。



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