BAE リョーマくん。誰より先に駆け寄りたいよ

黒川未々

第1話 ひとめぼれしちゃった

 大きな鏡のあるダンス部の部室。話し合いが終わって人も減った後で、私は一番仲の良いモモだけに聞こえる声で聞いた。

「モモのクラスの大町おおまちくんって格好良くない?」

「誰?」

「大町リョーマ。知らない?」

「そんなことより!」

 モモはゴールデンウィークの五月さつき祭りに出るメンバーが気になって仕方ない。毎年恒例のOGの先輩へのお披露目も兼ねたイベントで、三年生になり、モモはようやくセンターになれると思っていたのに、新入部員に一人すごく上手な子がいたから。

 後ろに飾る幕も用意しなくちゃいけないし、他にも振付や動線と、やらなきゃいけないことがたくさん。

舞雛マヒナって悩み、無さそうだよね。うらやましい」

 こういう時、私はとりあえず笑う。


 リョーマくんとは、一年生の時に同じ班になったことがあるけど、絡みは一切無かった。

 ついこの前の日曜日、ママと大通駅で買い物していたら、すすきの方面から歩いてくるリョーマくんを見かけた。春らしいパーカに太めのジーンズ。超タイプ。背も高くて格好いい。こんなにイケてる子が近くにいたなんて!

 しかも、リョーマくんは女の子二人に挟まれていた。「やるじゃん」って思った。


 次の日の放課後、玄関にダッシュした。一秒だって無駄にしたくない。

「今、帰り? 一緒に帰ろ」

 待ちぶせされたリョーマくんはきょろきょろしたあとに、しかめっ面をした。そんな顔をされても警戒している黒猫みたいでキュンとする。日曜日にセットされていた前髪は、今はそのままで邪魔くさそう。襟足も他の男子に比べたら長め。

「俺? なんで?」

「暇なら、カラオケ行かない?」

「だから、なんで?」

「忘れちゃった? 矢尻やじり舞雛まひな。一年の時、同じクラスだった」

「覚えてるけど……金ないんで、行きません」

「じゃ、うち来る? ケーキ食べようよ」

「ちょい……!」

 腕を引っ張ったら、払われちゃった。

「ごめんね。嫌だったね」

 安心させたくて私は微笑む。

「驚かせてごめんね。私、リョーマくんと仲良くなりたくて……もっと、お話したいな」

 その時、向こうからクラスの友達五人が横一列で歩いて来るのが見えた。

「もう、いないよ」

 そう言われるまで、私はリョーマくんの背中にひっついて顔を隠していた。

「ありがと」

「なんで隠れんの? 矢尻さんの友達っしょ」

「今日はリョーマくんと話したい気分だから」

 リョーマくんはため息をついて、髪をかきあげた。

「おーい、マヒナー! パパが迎えに来たぞー」

 振り返ると、パパが白い歯を出して笑っていた。

「パパ! 来るなら言ってよ」

 スタイル抜群でナイスガイなうちのパパは、仕事が休みの日によく迎えに来て、一緒にお出かけしてくれる。嬉しいけど、いつも急に現れるから困る。

 私が気づかずに帰っちゃうこともあれば、友達といる時にばったり会ったりもする。

 ダンス部の友達四人でいた時に現れた日には、みんなまとめて車に乗せて、カフェや遊ぶためのお金全部をパパが払ってくれた。

「そこのイケメンくんは? マヒナのお友達かな?」

「そう。友達のリョーマくん」

「マヒナがいつもお世話になっています」

「え? いや、俺は別に……」

「ねぇ、パパ、今日はリョーマくんも入れて三人でお出かけしようよ。リョーマくん、ゲーム好きだよね?」

 一年生の時、友達とゲームの話をしていたのを、私は聞いていた。

っきいクレーン、見に行こうよ」

 私がそう言うと、リョーマくんは車に乗ってくれた。

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