幼馴染だった僕らの話【全13話】
むげんさん
第1話「はじまりは、いつも通り」
――「変わらない日常」は、いつも唐突に揺らぐ。
高校2年になった**佐倉 悠真(さくら ゆうま)**には、人生のほとんどを共に過ごしてきた隣人がいる。
その名は――**佐倉 遥(さくら はるか)**
名字も、家も、誕生日も近い。
小学校の頃から「佐倉ご夫妻」とからかわれ続けてきたこの関係も、今では完全に“風景”と化していた。
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「悠真、早くしなよ。遅刻するよ~」
今日も2人で学校へ向かう。
特別早くもなく、遅くもない、他の生徒と同じ時間。
一緒に登校していても、もはや誰も茶化してこない。
クラスも先生も、「佐倉=セット」として取り扱うのが当然になっていた。
しかも、偶然にしては出来過ぎているが、2人の家はお隣同士。
お互いの親も公認で、特に何も言われなくなって久しい。
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教室に入ると、クラスメイトの**朝比奈 澪(あさひな みお)**が、いつもの調子で声をかけてくる。
「おはよー遥!あんたらホントいつも一緒よね〜」
「……澪、そういうこと言わないの」
「いやいや、あたし的にはそろそろ“佐倉ご夫妻”に改名してほしいレベルなんだけど?」
「もうっ……」
クラス中、笑いすら起きない。
それが“普通”になってしまっていた。
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昼休み。
遥が机の引き出しから弁当を出す。
その流れで、悠真の分も当然のように出てくる。
「今日は唐揚げ。冷めてるけど文句はなしね」
「……ん」
「感謝は言葉で伝えること」
「……ありがと」
そこへ澪がやってきて、遥の肩を軽くつつく。
「ねぇ〜遥〜、あんたさ〜、旦那の分だけじゃなくて澪ちゃんの分も作ってよ〜」
「……だれが旦那よっ!!」
「隣同士で同じ苗字で、弁当まで出てきたら、もはや入籍済ってことじゃないの?」
悠真がむせる。
遥が赤くなってそっぽを向く。
オタク女子グループがノートを取り出し、速攻で書き込みを始める。
《佐倉夫妻観察ログ No.13》
・唐揚げ弁当 → 分配形式(遥→悠真)
・“旦那”発言有り/クラス無反応=完全認定
その光景にも、2人はもう慣れていた。
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放課後。
部活を終えて、下駄箱で合流。
遥はバドミントン部、悠真はサッカー部。
汗を拭きながら、いつものように「じゃ、行くか」と言葉を交わす。
帰り道、近所のスーパーで買い物。
2人の両親は、両家そろって共働き。
しかも出張が多い仕事で
――平日の夜は家が空っぽ、なんて珍しくもなかった
だからいつの間にか定番となった“2人で晩ごはん”の買い物
遥が今日の夕飯の献立を考え、悠真がカートを押す。
完全に「そういう夫婦」にしか見えないが、2人はその空気を突っ込まない。
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家に戻ると、2人宛てに小包が届いていた。
1つは悠真宛に遥の父から
もう1つは遥宛に悠真の母から
悠真は小包を開けると――
『子どもは就職してからだぞ d(˙꒳˙* )』
同封:コンドーム(2個)
遥の小包には――
『若くても精力つけないとね♡』
同封:『これで毎晩愛される!精力UPレシピ』本
リビングで同時に封を開けて、沈黙。
そして――
「な、なにこれっ!?ちょっと!見せなさいよ!」
「いや、お前は!? そっち何入ってたの!?」
2人とも慌てて封を隠し、真っ赤な顔で目を逸らす。
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その夜、それぞれの部屋で、別々のため息がこぼれていた。
悠真は、心の中で自分に言い聞かせる。
(……いやいやいや、あいつはただの幼馴染だって……!)
一方、遥の心にも小さなざわめきがあった。
(悠真…最近ほんと……男っぽく……いやいや、だから違うってば!)
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翌朝。登校中。
ふと見上げると、自販機の上に体育座りしている男がいた。
「おはようございま〜す、佐倉ご夫妻〜!」
「……朝からやめてほんと」
「なんでアイツ、いつもあんな場所に……」
その男の名は――**ムゲン**
教室の天井から現れたり、3階の窓から突然入ってきたり、もう誰も驚かない。
空気をぶち壊す存在でありながら、“本当に邪魔してはならない時”には決して現れない。
そもそもムゲンという名前すらあやしい奴である。
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その日の放課後。
悠真は教室にひとり残って、明日の提出物を確認していた。
そのとき、廊下の向こうで――
リボンの色が違う制服の女子生徒が、教室を探しているようだった。
(1年生……?)
少し困っている様子だったので、声をかけた。
「どうした?迷った?」
「あ、すみません……」
その子は、小柄で髪をまとめた後輩だった。
悠真を見るなり、少し驚いた顔をした。
(……この人、確か――遥先輩の……?)
名前を聞く間もなく、その子は軽く頭を下げ、足早に下駄箱の方へ向かっていった。
そして、いつものように遥と帰った――
“変わらない日常”のままに――
――そう思っていた。
……その子が、**夏川 柚(なつかわ ゆず)**と名乗るのは、次の日のことだった。
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