工事
Kei
工事
ハイツの近くの空き地で工事が始まった。
同じ通りにあるので、仕事の行き帰りに前を通ることになる。開始日の早朝から十人前後の作業員が働いていた。油圧ショベルに削岩機、杭打ち機、小型ダンプ。基礎工事を行っているらしい。
なんとなしに聞いてみた。
「ここに何を建てるんですか?」
「アパートを建てるんです。再来月には出来る予定で…。ご迷惑をおかけします」
迷惑でもなかった。日中はいないし、夜に帰ってきた時には、その日の工事は終わっていたのだから。
ハイツは二階建て六部屋の単身者向けだ。不足はないが、もう少し広さも欲しかった。ここは駅にも近く会社へのアクセスもいい。新しいアパートが立つのなら引っ越したいものだ。
一週間後、残業で深夜に帰ってきたら、まだ工事をしていた。
懐中電灯の光の中でセメントを練り、ショベルを使っている。通りがかると作業員たちが一斉にこちらを向いた。彼らの顔は見えなかった。
「今日は夜中まで大変ですね」私は挨拶した。
「 …ええ、ちょっと急ぎでしてね…」
なんとなく帰る気にならなくなった。そのままハイツを通り過ぎ、違う通りから引き返して駅前のカプセルホテルに泊った。
翌朝、戻ってみると、ハイツは焼け落ちていた。
集まった野次馬の間から消火活動を見ていると、ビニールシートをかけられた担架が六つ運ばれていった。
どうも私は宙に浮いてしまったらしい。
それはそうと、丁度良い。
新しくできるアパートに入居することにした。
工事 Kei @Keitlyn
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