第2話 まずは調査!

 このままでは主人公の力の覚醒が起きず、主人公が死亡。そしてその先に待つのは世界滅亡だ。笑えなさすぎる。


 今までの俺は主人公たちと不干渉を貫いてきた。自分はあくまで関係ないモブであり、この世界の異物であると理解している。


 自分がストーリーにどんな影響を与えるかはわからない。干渉のしすぎで完全に詰みの状況を作り出したくはない。よって、できるだけ注目されず、しかし確実に通常のストーリーに戻す必要がある。


 ……無理ゲーだな、これ。それでもやらなければいけない。世界滅亡回避のために!




 そうして意気込んだとある日の昼休み。俺は教室後方の席に座り、ぼっち飯を食べる主人公を観察していた。


 ん?俺はだれと食べているのかって?……一人だが?強くなることに集中しすぎて友達を作れずそのままぼっちだったわけでは絶対にないが?


 ……友達いるからな、一人だけど。本当だぞ。


 ごほん。さて、自分の席でぼっち飯を食べている主人公の名前は『ヒイロ・アルバート』。これはゲームでのデフォルトネームだったから、入学直後もこいつが主人公だとすぐにわかった。


 金髪碧眼、容姿端麗、高身長。どこか中性的で儚さのある雰囲気からは、世界を救う英雄になるような男とは思えない。どっちかというと、モデルとかそっち寄りだ。


 当たり前と言えば当たり前だが、ゲームの主人公だけあって、しっかりモテそうな見た目である。


 それなのに、彼は誰かと仲良くしようと、いや、コミュニケーションを取ろうとする様子すらない。なぜか誰に話しかけられても、まともに会話に応じようとせず、何か喋ろうとしては、黙り込んで俯く。


 そのせいで、入学直後は主人公イケメンと仲良くなろうと女子が群がっていたのが今では見る影もない。


 ゲームではモブやクラスメイトと話す描写はなかった。そういう意味では、あまり人と話さないのはゲーム通りと言える。が、ここまでコミュニケーションを取らないのはさすがに違和感を感じる。


 コミュニケーションを取らないというより、取れないもしくは拒絶しているように感じるのは気のせいではないと思う。


 その時、主人公がスッと立ち上がってどこかに行こうとしていた。ふと、いつもの昼休みに主人公を見かけたことがないことを思い出す。そういえば、主人公は昼休みに毎回どこへ行っているのだろうか。


 ……気になってきたな。後をつけたからといって、ゲームと変わった理由がわかる気はしない。でも何か調べて行動してないと手遅れになりそうで焦ってしまう。


 っと、悩んでいるうちに主人公は教室から出て行こうとしていた。見失う前に慌てて食べてた弁当をしまう。さて、ステルスミッションの始まりだ。




 教室から出て廊下へ。この学校にある建物は主に3つ。敷地中央にある教室の入った本校舎。西側は先生専用の副校舎、北側はトレーニング場や部室のある運動場。さらに東には細々とした建物が混在している。


 そんな中で、主人公はどこに向かっているのか。向かう方向は東、だがそっちは建物がいくつも建っており見当をつけにくい。よく使われる建物からいくと図書室や特殊実験室といったところか。でも主人公が向かいそうな場所ではない気がする。


 主人公の行き先に疑問を抱きつつ、一定の距離を保ちつつ追跡していく。廊下の角から角に隠れながら息を殺しながら。この際あまり他人の目を気にする必要はない。というかすでに何人かの人間に不審な目で見られている。


 主人公から隠れながら追跡する様は軽く不審者だ。何度か見逃しそうになり、ヒヤッとすることもあったけれどなんとかついていく。


 数分も歩いて行けばどんどん本校舎から離れ、人気も少なる。図書室や実験室も通り過ぎ、気がつけばあたりの建物も使われてなさそうな古びた建物ばかりだ。もうここら辺になると老朽化した建物しかないはず。


 そしてやっと主人公は一つの建物の前で足を止める。そこはテナントより少し大きい程度の建物。中は教室のような作りになっており、今は使われなくなった机や道具が積まれてある。


 ただ教室の中心は整理されており、椅子やクッション、小さい冷蔵庫も置かれている。主人公しか使っていなさそうだが、しっかり管理しているのか埃や汚れもほとんど見当たらず、丁寧に使われているようだった。主人公の秘密基地といったところだろうか。


 いつの間にこんな部屋を準備したのかと疑いたくなるほどに整っている。椅子から本棚や冷蔵庫に手が届くような設計。使われてない教室が利便性重視の快適空間へと変化している。


 一人分程度の空間しかないことから、同じように利用する友人はいないことが分かる。ぼっちなりに学校生活を満喫しようと色々工夫しているようだ。これはこれでなかなか楽しそうでうらやましい。


 それにしてもこの配置の仕方、見覚えがある。いや、前世の俺の部屋とかニートの部屋とかではない。そういうやつではない。この雰囲気というか色々考えられたような配置の仕方。どっかで見た気がする。


 う〜ん、どこで見たんだっけな。喉元まで出かかっているのに、後もう少しが出てこない。どこか似た部屋を見たはずなのに……。


 主人公は椅子に座りクッションを抱えたまま読書に勤しんでいる。このまま昼休みはここで過ごすようで、ここから動くことはなさそうだ。


 結局わかったことは、主人公は秘密基地を作り学園生活を楽しんでいるということぐらい。ゲームと変わった理由も解決策もそう簡単には見つからない。


 もう教室に戻ろう。昼休みの時間も減ってきている。


 小走りでもと来た道を戻る。今度はしっかり計画でも立てようかと考えていたら、教室に帰ってきていた。扉を開き教室に入ると、あることに気が付く。


 誰かに見られている……?


 誰かにじっと見られているような気配。睨むような視線ではなく、こちらの様子を伺うような、恐る恐る覗き込むといったそんな視線だった。視線を向けているのは数人程度。クラス全員ではない。


何か俺に変なところでもあるのだろうか。まさか顔にお昼ご飯が––––ついてない。


 自分の顔をペタペタと触れてみても何もついていない。こうなると本当に注目される理由が見当たらなくなってくる。


 トントン。


 その時、誰かが俺の肩を叩いた。振り向いた先にはニヤニヤしているイケメンがいた。


「やぁ同級生をつけてたストーカー君じゃないか。顔を触ってるけどおかしいことでもあったのかい?」


「よし、歯を食いしばれ。大丈夫だ、保健室にいけば治る程度にしてやる」

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主人公とヒロインがくっつかないせいで世界が滅びそう〜主人公がコミュ障陰キャ!?〜 トリサシ @yozna

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