王様ゲームで恋愛成就(けんとりなの場合)

TCM出版(仮)@kampou

序章 はじまり

序章:はじまり


この年になって、修学旅行でもないのに、男女混合で旅館に泊まるなんて、思いもみなかった。大学の仲良し六人グループでの初めての旅行。


俺の名前は、けん。大学二年、二十歳。地方の大学に通っていて、サークルもバイトもそこそこ。どこにでもいる“普通”の大学生――ただ、恋愛だけは一度もうまくいったことがない。好きな子がいないわけじゃない。むしろ、いる。

その子の名前は、りな。俺と同じ学年で、同じグループ。優しくて、落ち着いていて、長い黒髪で、どこか冷静な空気をまとっていて…。今も、向かいの座布団に座る彼女を、俺はそっと横目で見ている。


この旅館の部屋は、いかにも和風旅館らしい十畳の和室だ。夕食を終え、浴衣に着替えて、男女6人、輪になって座っている。


「なーんか、やることないねー」

そう言って伸びをしたのは、なおだった。なおは、おしゃべり好きで、ちょっと自由すぎるところがある。高校時代にハードル走でインターハイに出たことがあるらしく、今も引き締まった脚を、堂々と見せるように浴衣をゆるめに着ている。

前をちょっとはだけたその座り方に、隣のゆうじが慌てたように目線をそらしてるのが、なんか面白い。


ゆうじは、無口なやつだ。高校からの友達で、空手の黒帯を持っていて体格もいいのに、冷静に見えて実はむっつりスケベなところがある。俺と同じで、彼女はいない。…はずだけど、なんとなく何を考えてるのか読めないところがある。


「ふふ、こんな時こそ、夜っぽいイベントが必要なんじゃない?」

さやかが、口元に手を当てて笑った。茶髪のセミロングをふわっと整えて、たくみの隣に寄り添うように座っている。

さやかとたくみは俺達の公認カップルで、男子グループは、たくみとさやかの交際をきっかけで女子グループと仲良くなった。

さやかは人懐っこい笑顔が印象的だけど、時々少し強めの言葉をぶつけてくることもある。どこか小悪魔的というか…。


さやかが真っ先に座椅子に体を沈めると、ふぅ、と小さなため息をついた。

なおも浴衣の裾を気にしながら、

「そうそう、なんか遊ばなきゃもったいないって感じ」とうなづいた

たくみがニヤッと笑って、得意げに言った。

「じゃあ、俺から提案があるんだけど」


たくみは俺の中学からの親友だ。明るくてノリがよくて、グループのムードメーカー。何をやっても器用にこなす。人を見透かす先読みをして俺達はよく驚かれる。

今回の旅行を幹事もして、昔から、何か面白そうなことを見つけては、周りを巻き込むのが得意なやつだった。

「ジャーン、くじ!」

テーブルの上に、手作り感満載の割りばしの束が置かれた。一本ずつに番号が書かれているようだ。


りなはその光景を見て、ほんの少し眉をひそめる。

「それって……まさか!?」

「そう!伝統の夜遊び、王様ゲームです!」

たくみはそういうと、いたずらっぽく笑った。


さやかは面白がった様子で割りばしを一本手に取り、

「わー、懐かしい!でも、大学生にもなってまだやる?」


俺は少し困ったように笑った。

ゆうじは何も言わずに割りばしを見つめ、その表情からは何を考えているのか全く読めないでいた。

りなは「うーん」と少し考えたが、なおに促されるようにして割りばしを眺めた。



「じゃあ、ルール確認しておくね」

と、たくみが場をまとめるように言う。


「くじには1〜5番、それと王様の棒がある。王様になった人は、最大3人まで番号で命令できます」

「最大3人? ってことは、1人だけでもいいの?」と、さやかが手を挙げて聞く。

「そうそう!1人でも2人でも3人でもOK!王様が自由に決めていいってこと。

で、当たった人は手を挙げて、命令に従います!」

「なるほど〜」と、なおが感心したようにうなずいた。

「でもさ、その命令の内容って、どこまでありなの?」

たくみはニヤリと笑って、声を低くする。

「そこがポイント。命令内容は、“人間的にギリギリのライン”で!」

「その“ギリギリ”って誰が決めんのよ?」

と、さやかがすかさず突っ込む。

「そりゃ、空気でしょ空気!やりすぎな命令には、全員で“ノー”って言えばいいだけ。強制じゃないから安心して!」

「なんか、全然安心できない感じがするんだけど〜」と、なおが苦笑いを浮かべる。


りなは黙って聞いていたが、少し口元を緩めて言った。

「まあ、やってみてダメだったらやめればいいし。様子見ながらで、いいんじゃない?」

その“自分を一歩引いて見るような”彼女の言い方に、けんの胸が少しざわついた。



「じゃあ、最初の王様を決めよう」とたくみは言った


こうして、俺たち六人の夜が、少しだけ非日常に踏み出すことになった。


王様ゲーム――

それは、少しの勇気と、少しの好奇心と、少しの…羞恥を、味わうための遊び。


まさか今夜が――

俺たち全員が巻き込まれていくなんて――このときの俺たちはまだ知らなかった。



この物語は、王様ゲームを中心とした羞恥、友情、恋、裏切りがゆっくりと絡んでいく青春群像劇小説です。フィクションです。

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