第13話 旅立ちの詩
やあ、おいらです。
少しお久しぶりになりました。というのも、不覚をとってしまい、クマインフルエンザに罹患しまして身動きが取れなくなってしまったのです。不思議なことにおいらの周りには感染源というか濃厚接触者になりうるクマなどまったくいないのになぜか発症してしまいました。今年は日本中クマが出没して大騒ぎでしたが、いくらなんでも横浜市港北区の住宅街に野生のツキノワグマが出てくることはないでしょう。主治医である
しかも、後遺症が残ってしまいまして、倦怠感がひどく、床上げもままならないま今日を迎えています。ようやく、多少は動けるようになってきましたので、たいした仕事はありませんけれど、業務再開です。
とはいえ、倦怠感がひどいというのは実のところ少し大袈裟な表現でして、本当は現実逃避でサボっていたというのが心理的事実です。実は、おいらにはやりたくないタスクがひとつありました。例の星野ひかり大佐に「あなたはメッセ140世になる“代理者”だ!」と告げることです。だって、いままで部下だったインパクト強めの小娘に地球宗教上の最上位者だと宣告するなんて、なんか妬ましくてイヤではないですか。ですから、一週間も布団に潜り込んでいたら、総大将代理のネロあたりが告げてくれるかサーバーのみなさんがやってきて儀式をとり行ってくださると思っていたのです。
甘かったです。さっき、ネロに「あの話、彼女にしてくれたよね」と訊ねましたら、「いいえ。私は総大将代理として軍事の軍配はお預かりしていますが、信仰事項などについての権限はお預かりしていません。だいたい、それはぺこりさまの仕事です。ついでにいえば、サーバーさま方もまだ一人としてこちらにいらしていませんので、伝達式をとり行うこともできません」と宣言されてしまいました。ああ、めんどくさいし、身体がムズムズしてイヤだなあ、というのが現在の気分です。
けれども、あまり日にちをあけていますと、神の中の神(日本にいるときは、花原氏)から天罰を喰らってしまいそうなので渋々、居室に星野大佐を呼ぶように羽鳥統合参謀本部長に命令して、とっととめんどくさいことは終わらせようと思いました。
そのとき、ハッと思いました。「どちらが上座に座るのだ!」ということです。ただの部下であれば、当然おいらが上座、部下が下座ですけれど、相手は神の中の神の“代理者”です。どう考えてもそちらが上座です。しかし、そのお方は現在おいらの一部下に過ぎない小娘です。『悪の権化』の棟梁であるおいらが下座につくなどという恥辱は簡単には受けたくありません。
そこで、組織内生成AIの『くまんばちくん』に解決法を訊いてみることにしました。その結果「ぼくにはわかりません。ごめんちん」と出ました。おいらはタブレットを蹴っ飛ばしました。その上、後足で思い切り踏みつけてやりました。もちろん粉々です。あとで資材部から始末書を書くようにいわれるでしょう。棟梁でも悪いことをすると叱られるのが我が組織なのです。
もう、仕方がないので、おいらは自分で考えることにしました。そうしたら、昔読んだ歴史小説の中に徳川家康と豊臣秀頼が二条城で対面した時にどちらを上座にしたら良いのかわからなくて両者を座敷の中央に同格の立場で座らせたという文章があったような気がしましたので、早速に座布団を座敷の左右に配置しました。その際に、おいらはちゃっかり上座からみて左側に座りました。なぜならば、日本では古来より右より左の方がえらいからです。右大臣より左大臣が上位だというのが良い例です。それから、小娘とマンツーマンでは少しばかり心細いので、おいら側には水沢舞子、星野大佐側には羽鳥統合参謀本部長を座らせることにしました。ちなみにあとでいろいろ検索してみたところ、家康と秀頼の話はおいらの勘違いで、実際は官位が上位の家康に秀頼が先に頭を下げたようなので、おそらく家康が上座だったようです。(諸説ありそうですが)
居室内にある茶室で南川景子女史に茶を点てさせていますと、羽鳥に連れられて星野大佐が入室してきました。ここはおいらのプライベート空間ですので、制服組の一隊員(大佐ですけれど)がくるのはおそらく初めてでしょう。ああ、忍者衆棟梁の蛇腹蛇腹がまだヒマ人だった頃はよくきていましたけれど。いまでは、忙し過ぎて遊んでくれません。
「やあ、星野さん」
おいらが鷹揚に話しかけますと、星野大佐は攻撃的な目をして、
「ぺこりさま。ワタシは左遷ですか、クビですか」
と口角泡を飛ばして叫びます。
「なんで?」
おいらが問いますと、
「今回の“代理者”の後継探しで、ワタシはリーダーシップもチームを効率よく動かすことも、タレントマネジメントも上手くできなくて、とっても重苦しい雰囲気を作ってしまいました。司令官失格どころか軍人の才能がありませんからです」
泣きそうな目で訴えてきました。
「そうかなあ。大佐はさあ、きちんと『日本に“代理者”の後継人はいません』という結論を出してレポートをおいらに提出したのだから、途中経過のことは知らないけれど、仕事をやりこなしたのでしょう? ならば、司令官失格ではないと思うよ。軍人に向いているかどうかは別問題だけどね。そういえば、なんで我が組織に入ったの」
おいらは訊きました。すると、星野大佐は、
「ワタシ、ボランティア部門希望で志願したのです。料理が得意だから、被災地で炊き出ししたり、子ども食堂でかっぽう着をつけて晩ごはんを作ったり。それなのに、アジトの隊員食堂の料理人にされました。料理長からすごいパワハラにあいました。そうしたら、その料理長と外部業者の不正経理を見つけちゃって、公益通報したら、料理長は処罰されて、なぜか新人のワタシが次の料理長に任命されちゃって昇進までしました。まあ、料理は好きなので、残った仲間と栄養価が高くて原価の安い定食を開発したら『おいおい、タニタ食堂みたいだ』っていわれて食堂の利用率が爆上がりしちゃって、なぜか階級がまた昇格。ワタシ、まだ、拳銃も触っていないのに。それで、羽鳥統合参謀本部長に目をかけられて、全隊員のタレントマネジメント業務のリーダーをやらされたら、なんだかうまく適材適所のマネジメントができて『部署の不満がなくなりましたよ』って本部長に褒められて殉職していないのに二階級特進したのですけど、『この仕事はメンタルをやられます。ワタシは料理が作りたいのです』と本部長に強くお願いしたら『じゃあ、料理の原材料を学んできなさい』といわれて、十勝の農園にていよく左遷されました。でも、やってみたら野菜作りってとっても楽しいし、一緒に働く仲間、まあ実際にはワタシの部下なんですけど、明るくてチームワークもバッチリで、気がついたら生産量年間前年比500パーセントってちょっと異常な数値を出しちゃって、また二階級特進。ほんと、ワタシ死んでないですよね? だけれども自分でも、もしかしたら人材マネジメントの天才? なんて思ってしまったのですけど、今回のミッションでは大失敗。いままでのワタシ、運が良かっただけなのかもしれないです」
長々とした自慢話と愚痴を訊いていて、おいらはやっと気がつきました。星野大佐は運が良いのではなくて神の中の神に愛されているのだと。考えてみれば、墜落した航空機に搭乗して亡くなっていたかもしれない生命です。それを救ったのも神の中の神でしょう。やっと、星野大佐が“代理者”だと合点がいきましたので、サーバーさんたちは一向に来ませんけれど、彼女にそのことを伝えることにしました。
「ねえ、星野さん。実はあなたが“代理者”なんだよ」
そういったおいらは星野大佐がどんな顔をしてびっくりするか楽しみに待っていました。しかし、
「はあ、ぺこりさま冗談はやめてください。怒りますよ」
という反応を示しました。たぶん、今年生まれた男の赤ちゃんが“代理者”だと思いこんでいるのでしょう。頭の柔軟性がない娘ですねえ。
「ウソでも冗談でもない。おいらは神の中の神からお聴きしたのだから」
「はあ〜、どこまで意地悪なんですか! 神の中の神の声が聴けるなら、ぺこりさまが“代理者”じゃないですか。メッセ140世じゃないですか。おめでとうにございます! ワタシはなんにも聴こえませんから」
星野大佐はむくれています。
「えっ、なんにも?」
おいらはドキッとします。
「はい。なんにも」
星野大佐はキッパリ答えます。
「じゃあさあ、あなたの頭の中ってどういう音とか画像とかが出てくるの?」
おいらは訊ねました。
「はあ、『みーんなー仲良く〜』とか『ケンカは良くないよ〜』とか、元気なリズムの唄ですねえ。それを口ずさんで出勤したり働いていたりしています」
ああ、そういうのかとおいらは思いました。
「いまのでわかったよ。あなたはメッセ140世だ。ただ、まだ自分で気がついていないだけ。まもなく世界中から十二名のサーバーがいらっしゃるから、よく話を聴いて世界中に平和を届けなさい」
「それなんですけど」
一応は納得したような星野大佐でしたが、なにかいいたいことがあるようです。
「そのサーバーって人たち、ワタシについてまわるんですよね」
「そうだろうね。お世話係兼ボディーガードだからね」
「それ、うっとうしいんです。ワタシは身軽に世界を周りたい」
旅行と間違えているようです。
「ムリだと思うけど、聴くだけ聴いてみれば」
おいらはもう付き合いきれないので、ドロンすることにしました。
「あとはサーバーさん方とよろしく」
すると、
「ぺこりさま、もし了解がとれたら月夜野曹長を貸していただけませんか?」
急に星野大佐が希望を出してきました。
「サーバー方の了承と、月夜野さんの気持ち次第だね」
おいらはいいました。
「大丈夫です。あの子、可愛い顔してけっこう神経図太いんです。誰の命令かは知りませんが、ワタシの部屋に盗聴器を仕掛けてケロッとしてるんですから」
ふーん、誰の命令でしょう。
「そういうことなら好きにしなさい」
「はーい」
元気に挨拶をすると星野大佐は出て行きました。
それから数日して、サーバー方がバラバラといらっしゃって、星野大佐に面接をしていましたが、お墨付きが出たようで、星野大佐は正式にメッセ140世に認定されました。
そして、驚くことにメッセ140世は自由に世界を飛び回ることを許されました。漏れ伝え聞くところではサーバー方も高齢化と後継者不足で困っているようで、一緒になって世界巡礼などとてもとても、だそうです。もちろん、月夜野兎曹長も半ば強制的についていくことになりました。世界をどうぞ平和に導いてください。
ところで、この物語なのですが一区切りつきましたので終わらせてもいいのですが、それでは『ボランティア・テロリスト』の全てをお見せしたことになりませんので、PVの厳しい世知辛い状態ですが、しょせんはおいらの趣味であり承認欲求を軽く満たせられれば良いので、まだ続くのです。
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