第4話 宇宙で一番偉大なものは……

 やあ、おいらです。


♪最後の花火に 今年もなったな〜♪


 いまさらですけれど、フジファブリックの『若者のすべて』にハマっています。きっかけは“権太坂46”の梅田穂花うめだほのかが深夜にやっているラジオでかかったのを聴いて鳥肌が立つほど心に響いたからです。ボーカルの方が早逝されたとか、活動休止になってしまったとか最近知りましたし、そもそも、ほかの曲は聴いたことがないという完全な一見さんですけれど「良い曲は良い」ということです。


 さて、唐突に話は変わりますが、読者の皆様に質問です。この世で一番偉大ものはなんだと思いますか?

 この質問は日本人以外の外国の方ならば単純明快に答えることでしょう。そう、自分の信仰する宗教の主祭神に決まっています。

 ところが、日本人は返答に困る方が多くいます。もともと八百万の神がいらしたところに天皇の祖先たるアマテラス系の神々、その後、インド発祥中国朝鮮半島経由で仏教が伝来してきますし、明治以降はキリスト教も正式に認められて(それ以前に隠れキリシタンが大勢います)宗教のデパートのようになります。標準的な日本人は正月に神社へ初詣に行き、キリスト生誕の前日にはどんちゃん騒ぎをし、人が亡くなればお坊さんにお経を唱えてもらいます。こんなことは他国ではあり得ません。一部の熱狂的な新興宗教信者以外は宗教に対して曖昧な態度をとっています。統計的には日本人って仏教徒が多いと思いますが、自分が何宗かも知らない方が結構いらっしゃるのです。当然、どの神仏が偉大かなどは答えられないでしょう。


 しかし、それはそれで良いのです。実は、この宇宙にはすべての神仏を超越しているいわば“神の中の神”が存在しているのです。知らなかったでしょう?

 

 それもそのはずです。“神の中の神”は人間の全脳細胞やスーパーコンピュータを用いてもその実相を知ることができないほどとてつもない存在なのです。なんといってもこの宇宙にある知的生命体が住む惑星の全てを司る存在なのですから。アリが巨大すぎてヒトを認識できないように、全宇宙の知的生命体も“神の中の神”があまりにも巨大すぎてその存在に気づくことができないのです。


 ではなぜ、おいらがその存在を認識しているかといいますと、実は、どの惑星にも一人、“神の中の神”の意思を心で受け取ることができ、そのことを人々に知らせる“代理者”という聖職者がいるのです。おいらは人間ではありませんが、知能はありますので、この“代理者”に何度か謁見して“神の中の神”が発したありがたい説教を受けたことがあるからなのです。


 おいらが拝謁した“代理者”はメッセ139世。ロシヤ連邦、当時はソビエツ連邦のレニングラード(のちのサンクトペテルブルグ)の生まれで俗名をアレクセイ・ミハイロビッチ・コンドラチエフ。通称アレクといいました。実父は造船業に従事していたそうです。

 彼が五歳のとき、ロシヤ正教の信徒に連れられた十二人のサーバーたち(“代理者”に使える重臣のこと)が実家を訪れ、実母に彼の生年月日生誕時刻などを詳細に訊ねました。訝しながら実母が答えるとサーバーたちの表情が厳しくなり、続けて彼自身に五本の杖を見せて「あなたの杖はどれですか?」と訊きました。彼は迷わずその中の一本を選んだのです。サーバーの一人が「なぜ、それを選んだのですか?」と訊ねると、五歳の彼は「何だか懐かしい気がするから」といいました。その瞬間サーバーたちは歓声を上げ「次の“代理者”がようやく見つかった!」と叫び、実母と労働から帰ってきた実父に、アレクが前“代理者”の生まれ変わりであること、神の中の神に選ばれた者であることを伝え、いままで育ててきたことに感謝すると共に応分の謝礼を渡すと彼を引き取り、同都市の聖イサアク大聖堂へと彼を連れて行き、地元の信徒らを呼び寄せて一緒に世話と教育を施しました。そしてアレク成人の日に正式に“代理者”メッセ139世として即位させました。

 その頃には彼の心に、神の中の神の意識がしっかりと伝導され、自身の行うべきことを自覚したのです。社会主義国家という宗教的には活動を行いにくい環境下においても、彼は地道にそして穏健的に神の中の神のお言葉を市民に伝え広め、巨大な連邦の至るところからそれを聴きにくる者が多く集まりました。クレムリンは当初、彼とその信徒を弾圧するつもりであったそうですが連邦のトップである代々の書記長らが彼の言葉に魅了されてしまい、なんとなく治外法権のような扱いを受けていたらしいです。


 しかし、ソ連邦が崩壊し、ロシヤ連邦共和国となり、あのKGB上がりのプーチャンが大統領に就任すると風向きが変わりました。プーチャンにとって“代理者”メッセ139世はプリコジソ氏やナマヌルイ氏のように自らにとって反体制側の人間であり排除するべき存在と位置付けられたのです。“代理者”メッセ139世の暗殺計画はクレムリンの奥で着々と進められていきました。

 だが、サーバーたちも無能ではありません。クレムリンサイドに情報提供者を数多く配置していました。なので、すぐに危険を察知し、“代理者”メッセ139世を西側諸国に退避させたのです。


 西側諸国に亡命した“代理者”メッセ139世は各国で神の中の神のお言葉を市民に発して、平和と調和を訴えました。それは歴代の“代理者”メッセが生命をかけて行い続けたことです。多くの市民が共感し目には見えず、耳にも聴こえぬ神の中の神の宇宙意思を心に留めていきました。


 しかし、またもやです。彼がアメリヤ合衆国に滞在していたとき、大統領であるスランプが自らのソーシャルメディアに「“代理者”メッセ139世などインチキだ! 追放しろ!」と書き込み、スランプの岩盤支持層の者どもが、彼の滞在していた教会を襲撃するという事件が起きました。

 だが、これも事前にサーバーたちが情報を得ており“代理者”メッセ139世はいち早くボルチモア・ワシントン国際空港からブリティッシュ・エアウェイズでロンドン・ヒースロー空港に去りました。


 ロンドンに到着した“代理者”メッセ139世とサーバーたちは用意された車(防弾装備済み)でバッキンガム宮殿へ向かい、国王に謁見しました。歴史あるヨーロッパの国王方は代々、“代理者”メッセに感応し信奉しているので英国王は“代理者”メッセ139世を丁重に扱いました。英国王はイギリソ国内に留まるよう“代理者”に進言しましたが、“代理者”メッセ139世は「もう少し寒冷の地の方が我が身に合っております」といって固辞してしまいました。英国王はならばと北欧のスウエーダン王国国王に親書をしたため“代理者”メッセ139世に手渡しスウエーダン王国へ行くことを勧めました。

 “代理者”メッセ139世とサーバーたちはロンドン・ヒースロー空港からブリティッシュ・エアウェイズを利用して、ストックホルム・アーランダ国際空港に降り立ち、スウェーデン王室の居城であるドロットニングホルム宮殿へと向かい国王に謁見。英国王の親書を手渡し在留を歓迎されストックホルムの西、ウプサラ県にあるエンシェーピングリツレーナ教会に居住することと神の中の神のお言葉を大いに広めることを懇願されたそうです。


 ようやく安住の地を見つけたかと思われた“代理者”メッセ139世でしたが、第二次世界大戦勃発の前年に生まれ、幾多の困難に見舞われた肉体は病を得て、ベッドに横たわる日々が続きました。国王からはスウエーダン王国一の名医が派遣されてきましたが、診察の結果、全身に癌が転移し余命半年と宣告されてしまいました。“代理者”といえども一人の人間でにすぎません。必ず死は訪れるのです。結果を聞いた“代理者”メッセ139世は微かな笑みを浮かべ「これで無に帰れる」と穏やかに話すと共に、サーバーたちに「我が死した後には速やかに次の“代理者”を見つけ出すよう」命じられました。

 しかし、それは大変なミッションでした。次の“代理者”は地球のどこに誕生するか全くわからないのです。サーバーたちは全世界の宗教従事者のトップやエージェント組織に“代理者”メッセ139世が寂滅した瞬間に捜索の依頼をしなくてはならない。“代理者”メッセ139世が寂滅した月日と秒数に一致し、なおかつ“代理者”メッセ139世の生まれ変わりであるという確かな証拠を得て初めて次の“代理者”が決定します。生まれ変わりが見つかるまで何年かかるかわからないのです。“代理者”不在の間は神の中の神のお言葉を聴くことはできません。一刻も早くミッションを成立させなければサーバーたちの神経はすり減り、一気に老けてしまうといわれています。


 スウエーダン時間、20××年5月26日午後11時14分46秒。“代理者”メッセ139世は静かに寂滅しました……


 この、一見するとおいらと組織にはあまり関係なさそうなことが、厄介な事件に発展するのですが、それはまた次回にお話ししましょう。では、さようなら。

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