第20話 見回り事情と謎の地図
新たな仮説を披露すると、今度は「おお~」「なるほど」といった声が上がった。
「たしかに、足立くんの考えには一理あるかもね。学校に簡単に入ることができて、さらにG-Studyも扱える人なんて普通に考えたら先生しかいないもの」
「はい。ただ、根拠は全くもってないので、これから見つける必要がありそうですね」
その言葉に佐々木先生はうんうんと相づちを打ってくれた。そんな中、中野はひとり首をかしげているように見えた。
「中野さん、何か思うところでも?」
「あ、いや、そんな深い意味とかはないよ。ただ、先生って言ってもたくさんいるよな~って思っただけ。その中から絞り込むのってけっこう難しくない?」
たしかに中野の言うとおりだ。1~3年生の各学年で3クラスずつあるので、少なくとも9人の先生が犯人の候補として挙がることになる。しかも副担任の先生なども含めると、候補者はさらに膨れ上がることになる。ひとりひとりに対して目を見張るのはなかなかに難しそうだ。それに、先生全員に疑いの目を向けながら過ごすというのもストレスがたまりそうなので、できればやりたくない。
この仮説はいったん保留にしておくか、と考え始めたその時、佐々木先生がふと思いついたかのように口を開いた。
「もしかしたら、かなり絞り込めるかも」
「本当ですか?」
「先生全員が見回りをやるわけじゃないからね。主に担当しているのは2年3組の田中先生と音楽の高梨先生、1年2組の江口先生、教務主任の三橋先生、それと私の5人よ。でも江口先生と三橋先生は夏休み中ほとんど見回りはしない予定になっているから、残りの3人が主に担当することになるわ」
「けっこう少ないんですね」
「でもね、夏休みに肝試しで忍び込む生徒って話題にはなるけど、人数としてはそこまで多いわけじゃない。だから実際は、これぐらいでも十分だったの」
佐々木先生が教えてくれたことに対して、足立らは「へえ~」と静かな驚きを漏らした。
先輩からも話はよく耳にするし、先生の間でも話題にもなるぐらいだから頻繁に起きているものだと思い込んでいた。だがたしかに、振り返ってみると今までの調査の中で生徒会以外の誰かに出くわしたことはなかった。
「ひとまず、仮説が仮に正しいと考えたとすれば、心霊騒ぎを起こしている犯人の候補は田中先生と高梨先生、そして佐々木先生ということになりますね」
「なら私は、無実を示すためにもちゃんとアリバイを作っておかないと」
冗談めいた口調で佐々木先生が微笑む中、星守がスッと手を上げた。
「質問しても良いですか?」
「ええ、大丈夫」
「見回りをするのは基本1人なのですか?」
「星守さんの言うとおりよ」
「では、見回りの人数を増やすことはできないのですか? お互いに行動を監視し合えるので、抑止力になると思うのですが」
「それは先生の負担を考えると難しいかも。それに夜に見回りをするのって割とグレーな行為なの」
「そうなんですか?」
「最近は働き方にうるさくなってきちゃったからね。といっても、肝心な部分については未だに見て見ぬ振りをされるんだけど」
最後の一言は半ば投げ捨てるような言い草になっていた。
「とにかく、見回りの人数を増やすことは難しいの。それでも、他の先生に掛け合って見回りの頻度を増やしていただくように交渉してみるわ」
「本当にありがとうございます」
「いいのよ、生徒のためだから。けど、確実に増やせるかは保証できないから、調査を続けるなら気をつけてね」
「「はい」」
返事をしたところでこの話はいったん区切りをつけることになった。すると、山城がおもむろにパンと手を叩いた。
「よし、それじゃあ昨日手に入れた地図をもう一回見てみないか?」
「良いですね。見てみましょう」
机に置いたスマホをポケットにしまい、代わりにタブレットを置いた。そして昨日手に入れた地図を写し出すと、みんなで頭を突き合わせた。
「改めてみても、意味分かんねえな」
「ほんとですね。この記号がどういう意味か、さっぱりです。足立くんは何か分かったりする?」
「いや、僕もさっぱり」
そう言って首を振ると、中野は「そっかあ」と軽くため息をついた。
これからの雲行きが怪しくなってくるなか、佐々木先生が顔を覗かせると「これ、懐かしい〜!」とひときわ高い声を出した。
「懐かしい?」
「ええ。この記号、文化祭の時に使ってたやつと同じなのよ。私、文化祭実行委員会に入ってたんだけど、2年生の時にスタンプラリーをやってね。各教室にこの記号と同じ形のスタンプを置いてもらって、一定数集めると景品がもらえるっていう感じで、いろんなクラスと協力しながらやってたな~」
懐かしむような目で地図に見入る佐々木先生が少し珍しく思えた。それに佐々木先生が加賀山高校の出身だということも初めて知ることとなった。
「でも、こんな変わった記号のスタンプって用意できたんですか?」
中野がそう尋ねると、佐々木先生はふふっと笑って見せた。
「スタンプといってるけど、実際は消しゴム判子だったの。地図に書いてある記号の形になるように彫ったんだけど、中には結構難しいものもあってね。あれほど消しゴムと向き合った日はなかったわ」
消しゴムを細かく彫る作業は想像しただけでも苦労が目に見えるようだった。
足立も小学生の頃に消しゴム判子を作ったことはあるが、凝ったものにしようとしてボロボロに崩れてしまったことを思い出した。
「でも、このバツマークは何なのかしら? 私の記憶だと、こんなものはなかった気がするけど」
「……この場所に何かあるってことだな」
「なら、ここに行ってみましょう!」
勢いよく席を立った中野はそのまま生徒会室を走って出て行った。張り切ってるなと思いながら席を立つと、中野がひょこっと戻ってきた。
「場所、どこでしたっけ?」
後頭部をかきながら照れ照れする中野に苦笑いを返しつつ、改めて地図に記された場所に向かい始めた。
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