第16話 消えた生徒会長
かくれんぼが終わった。
そう判断した足立は机の下から飛び出すと、声の聞こえた方角に向かって全力で走っていった。
嫌な胸騒ぎがする中、階段を駆け下りると扉が開いたままになっている教室を見つけた。そこは最近よく訪れている場所のひとつにして、星守が身を隠していた場所、生徒会室だった。
「星守先輩!? 大丈夫ですか?」
声を張って呼びかけたが、返事は返ってこなかった。
「星守先輩。僕です。足立です。聞こえてたら返事をしてください!」
生徒会室の中に入り、何度も名前を呼ぶ。その時、廊下の方から誰かが走ってくるような音が聞こえてきた。
とっさに近くの机の下に潜り込と、近くに転がっていたほうきの棒を掴み、迎え撃つ体勢を作った。血流が全身を高速で駆け巡り、呼吸がだんだん荒くなっていく。夜の蒸し暑さに息が詰まりそうになる。時の流れがずいぶん遅くなっていくように感じられた。
首に流れる汗がぽたりと腕に落ちたその時、
「星守!」
と叫ぶひときわ太い声とともに、がっしりした体つきの男が飛び込んできた。
「山城先輩?」
「足立! 無事だったか」
肩をガシッとつかんだ山城の手がとても力強く感じた。手が離れた後も、両肩がしばらくひりひりしていた。
その後、山城の後ろから中野がひょこっと姿を現した。
「中野さんも一緒だったのか」
「うん。校歌が止んだ後、星守先輩のとこに行こうか迷ってたら、廊下を走ってる山城先輩を見つけて、後を追いかけたの」
「そういうことだ。それで、星守は?」
「分かりません。先ほどから僕も呼びかけてはいるのですが、返事はなく……」
「そうか。チャットも返ってこねえし、電話かけてもでやしない。どこに行っちまったんだ?」
辺りを見回す山城からは焦りのようなものを感じられた。いつもの頼もしさは健在なのだが、どことなく落ち着きがないと言えばいいだろうか?
とにかく、心配しているということが言葉に出ずともひしひしと伝わってきた。
「僕がここに来た時、既に扉が開いていました。おそらく、この部屋のどこかに隠れていた可能性が高いと思います」
「分かった。とりあえず、この部屋で手がかりを探そう」
そう言うと、山城はさっそく棚の下をあさり始めた。隣に顔を向けると、中野が神妙な面持ちで立ち尽くしていた。
「中野、大丈夫か?」
静かに声をかけると、中野はうつむいたまま口を開いた。
「……正直、ちょっと怖い。けど今は、星守先輩のことが心配って気持ちの方が強いかな」
そう言うと、山城に続けて棚の下辺りを探すべく、身をかがめた。普段の中野とは違う、覚悟が決まったような目が印象に強く残った。
自分は他の場所を探してみようと思い立ち、2人に背を向ける。どこか隠れられそうな場所がないか探っていたその時だった。
「ひいっ!」
中野が突然、声を上げながら尻もちをついた。
「どうした中野!? 何があったんだ」
「あ、ああああれ、あれ」
その震える手が指さす先には一枚の紙切れと見たことのない人形が落ちていた。赤い和服に身を包んだその人形にはほこりをかぶったような跡があり、触るとざらっとしていた。不快感をあおられる中、紙切れの方をつまむとそのまま裏返した。その瞬間、思わず息を飲んだ。
紙切れには赤黒い文字でひと言だけ、『みいつけた』と書かれていた。文字の周りには同じ色のしぶきが散ったような跡が残っている。
(まさか、そんな……)
紙切れを見た足立の脳内に最悪のシナリオが浮かび上がった。
その時、背後から「どういうことだよ」と呟く低い声が耳をかすめていった。振り返ると、眉間にしわを寄せる山城の姿があった。
「星守を、どこにやりやがったんだ」
握られた拳がわなわなと震え出す。そして身を翻したかと思えば、生徒会室をいきなり飛び出してしまった。
「待ってください! どこに行くんですか!」
「いま1人でいくのは危険すぎます!」
必死に呼び止める2人の声は山城には届かなかった。足音の残響が遠のいていく中、2人は動けずにいた。
「あんなに動揺してる先輩、初めて見た」
ぼそっとこぼすと、中野はためらいがちに口を開いた。
「あのね、部活の先輩から聞いた話なんだけど、山城先輩は星守先輩と幼馴染みなんだって。小さい頃から近くにいる、大事な人。山城先輩にとっては、星守先輩がそうなんだと思う。そんな人が正体も分からない幽霊に連れ去られちゃったら、足立くんだって動揺するでしょ?」
「なるほど。それが次第に、やり場のない怒りへ変わっていったというわけか」
冷静に分析しながら正面に向き直ると、棚にちょこんと居座る人形を手に取った。白い肌に腰の辺りまで伸びた後ろ髪。目を細めて微笑むその姿に今は不安をあおられる。
人形をよく観察してから戻そうとしたその時、思わず手が止まった。
「っ!?」
人形を再び手元に引き寄せる。その白い手の平をよく見てみてると紙切れに書かれていたものと同じ、赤黒い色に染まっていた。
「どうしたの?」
「……いや、なんでもない」
足立は見て見ぬふりをすることに決めた。ここで話せば、中野の恐怖心を不必要に逆なでしてしまうからだ。今はそんな余計なことをしている場合ではない。
人形を元いた場所に戻すと、2人は山城の後を追って教室を離れた。
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