鏡の意味を持つ幻影蠱惑の連鎖刃《れんさじん》――⑪

「ア ハ ハ ハ ハ ハ ハ ハ ハ ハ ハ ハ ハ ハ ハ ハ ハ ハ ハ ! ! ! ! ! ! ! !」



 とん、でも――ない――――…………!!!!


 飛竜スカイドラゴンの、思い出すだけで鳥肌とりはだの立つあの攻勢こうせいが――……まるでママゴトのように思える、レベルの……――存在圧そんざいあつ、攻撃の重さ、機動力――いびつな最適解――――!


 解放された人間とは、これほどに力を発するものなのか……!


 一個人が、僅か一つの存在がこれほどに――――。


「――――」


「――……!」


 もはや、言葉を交わす余裕すらない。


 ボクとモニカのみアイコンタクトで意思を交わし合う、イヴさんは一人、適切なタイミングで援護をはさんでくれる。


 こんなこと、お師匠様との修行でも起こり得なかった。



『噂が届いてるなら、もしかしたら聞いたことあるだろ? 討伐にあたって、白髪はくはつ銀髪ぎんがみ幻獣アビシアンの血液で染め上げる二人組ってな。伝聞でんぶんのインパクトは強烈だけど――幻獣アビシアンの血をかぶっているような腕じゃ、お話しにならないだろぉ』



 ――――あの時のイヴさんの語りは。


 あくまで、『冷静に対処できなければ腕前とは言わない』という意味合いの話だったのか。



「フ フ フ。フ フ フ フ。ハ ハ ハ ハ ハ ハ ハ ハ ハ ハ ハ ハ ハ ハ ハ ハ ハ ハ――――」



 人が【狂戦士バーサーカー】におちいる理屈は、解明されている。


 脳内麻薬の異常分泌。


 本当に、それだけが理由の異常状態だ。


 だが人によっては薬でも抑制よくせいできない異常分泌症状が現れる場合がある、ミヤコさんのこれはそのハイエンドだろう。


 無敵ではない、イヴさんが常時じょうじはそうしているように、なんらかの手段で昏倒こんとうさせれば、脳内麻薬の分泌が収まるまでの時間が稼げる、それで一応の解決は見れるだろう。


 止める者があれば――止めれる者がいなければ、災害級の被害がもたらされることもいなめない。



『私たちでは駄目なのです。になえない』


『リョウガさん、モニカさん。私は【殺人鬼】です。人間を【六十人】殺した、生粋の殺人鬼。私は死刑猶予の恩赦おんしゃを頂いて【幻獣対策協会セイバーギルド】に属している立場なのです』



 だからこそ彼女は、きっと、重度に自らをりっする心構えをいだいていたのだろう。


 ――――でも。


 ボクたちは知っている、向かい合って、この目で見て、感情で感じたんだ。



「  ア  ハ  ハ  」



 ――――本当なら初手の段階で、恐怖に絡まれ動けなくなっていた。


 けれど、モニカの【属性転換マジックコンバート】によって。


 その『恐怖』が『信用』という、ボクの心にあった感情を強く鮮やかに呼び覚ます力に変わって、心をふるい立たせる。


 鮮やかに、鮮やかに、あの時々の情景が心に浮かんで、そのたびに、感情が強く強く、湧き上がる――。


 信用。



『ご推察すいさつの通り、あなた達への過度かど干渉かんしょうは、エーデルワイス様が【幻獣対策協会セイバーギルド】にぞくするにおいての必須条件項目に該当いたしますので、今日ここへおもむいたのは私たち個人の判断です。場合によっては処罰を受け、おそらく【幻獣対策協会セイバーギルド】から追放されるでしょう』



 この人は、自分の立場さえも賭けて、全体のこと……世の平穏のためのことを考えていた。ご自身の立場を考えるに、その立ち位置は、絶対に無くしてはならないもののはずなのに。


 それなのに――。



『まあ、正直その判断も、分からないでもないけどな。けどな、隠してもしょうがないからけに言うけど、私たちは、それだけじゃない気がするんだよな。あんたら兄妹けいまいは、エーデルワイス殿どのが【オブレーガの大地】に渡ったことがあるのを知っている! ――違うかな?』


生憎あいにく、そこの事情はぞんじませんが……しかし仮に、それが事実だったとするなら、どのようなお話になるのでしょうか?』


『分からない、それがイマイチ分からないから、それを聞きに来たというのも……実はあるんだよ』


『イヴ……』


 他人の立場はおもんぱかって。



『リョウガさん、モニカさん、再三さいさんになり申し訳ありません、どうか、【幻獣対策協会セイバーギルド】へのスカウトの件、ご再考さいこう願えないでしょうか?』



 その願いのために、本当に頭を人に下げれるお人。


 本当に頭を人に下げれる、それがどれだけ稀有けうで難しいことかを、ボクは知っている。


 彼女は……自身でその役割をになうことを、諦めていた。


 けれど。


 もし、そのお力添えになれることがあって、彼女に、その道が示されたのなら。


 信頼。


 ボクたちが見た彼女の姿。彼女は、必ず――――。



「ミヤコさん、戻ってきてください!! あなたなら――その剣を握って、こちらに戻ってこれるッッ!」


「ミヤコさァーーーん、聞こえてッッ!!!! 私たちはさ、いつまでもこうしていていいよっ!! ただ――いつか必ずご自分で戻ってくるって、そのことは、最後まで信じるから……そのことは、ミヤコさん――――分かっていて!!!!」



 ――【連鎖刃れんさじん】のグリップられた、鈍い緑色の薄膜うすまくの正体は、【ゴブリンの体液】を精錬素材とした、伝導不全でんどうふぜんのコーティング膜だ。


 高炭素鋼こうたんそこうを使用し、加熱後ゆっくり冷やし本来の高硬度を失わせる『焼き鈍し』処理で、わざと脆く作り上げたグリップ外皮がいひ


 解放の力で握り潰せば陶器とうきのように砕け割れ、その瞬間、【アビスハウル】の特性を使用者に伝導でんどうする。


【鏡の意味を持つ幻影蠱惑げんえいこわく連鎖刃れんさじん


 精錬素材に【仮面の雄羊ミューレノクサルム霧幻嚢むげんのう】を使用した一振りで、ミヤコさんにしか意味をさない、個人用の武器パーソナルブレイド


仮面の雄羊ミューレノクサルム霧幻嚢むげんのう】、その精錬効果は――……。



 武器アビスハウルの使用者に『戦意を喪失させる強力な幻影を見せる』という、どうしようもないものだった。



 この世で唯一、ミヤコさんの願いだけには、背を押して助力となってくれる【アビスハウル】だ。



「「ミヤコさん!!」」



 呼び掛ける。


 呼び掛け続ける。


 決して、無駄にはならない。




「――――ミャコォッ!! 早く戻ってこい!!!!」




 絶対に、この声は――――彼女に届かないはずがないから。



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