理《り》に触れる翼竜《スカイドラゴン》を墜とす槍《スピア》――②

 イチコドールさんの魔法具屋は、今日も盛況せいきょうだった。


 小さな村でこれだけの人出がある店は他に知らない。


 皆、イチコさんに会いに来ているのだ。


「あら、リョウガくん、モニカちゃん、いらっしゃい!」


 モニカほどの歳の数人と話し込んでいたイチコさんは、ボクたちの来店に気付くと、女の子たちとの会話に一区切りつけて、イチコさんのほうからこちらに来てくれた。


 店内にいた男性のお客さん数名から、「なぬッ!?」みたいな視線を瞬間的に送られた。ボクにだけ。


 モニカも一緒なんだけどな……。イチコさんは本当に人気者だ。


「やっぱり、胸の大きな美人っていうのは、人間生物として最強だなぁ」


「コラ、モニカ」


「…………私の胸はどうして、一向に大きくならないんだろう……」


「…………」


 今の時点ではペタンコな胸に触って、唇をとがらせるモニカだった。


「リョウガくん、モニカちゃん、先日せんじつはありがとう。今日は勉強させていただきますので、ぜひゆっくり、自慢の商品を見ていってくださいね。フフ、遠慮せずにね」


「「ありがとう、イチコさん」」


 そんなわけで、ボクたちは必要品を見繕みつくろいがてら、【イチコドール魔法具店】を楽しく見回り始めた。


 ボクたちが住むこの世界は、【技術】と【魔法】で発展してきた。


【魔法】とは、元々は【個人が世界に及ぼせる影響力】を指す言葉だった。

 生まれついて、あるいは後天的に、いずれにしても『天性的な資質』にのみ発現する、人間意識の干渉影響力。


 例えば――【ある物体が世界に及ぼす影響結果を、別の干渉形態へ変換して出力できる】といった具合に。打撃を斬撃に変換した、モニカの【属性転換マジックコンバート】の魔法だ。


 モニカのように『一つの干渉影響力』を及ぼせる者のことを【リトルウィッチ】と呼ぶ。


 また『二種類の影響力を実現できる者』を【アークウィッチ】、『干渉影響力を三種以上体現できる超越者ちょうえつしゃ』については【アンリアル・ウィッチ】と呼ばれる。



 長くなったけれど――しかし、【ウィッチ】たちが覇権はけんを握っていた世は、今は遠い遠い昔である。



 その大昔、【魔法】を再現できる【術式回路】なるものが開発されて。

【世界に干渉影響力を及ぼせる物体】――つまり魔法具が誕生したのが、全ての始まりだった。


 それは一部のウィッチたちが止めるよりも早く――まさに“瞬く間”に普及して、その結果『個人が体現できる干渉能力』に、以前ほどの“ありがたみ”が無くなってしまったのだ。


 大衆たいしゅうが魔法に触れる時代。やがて注目は複雑な術式回路よりも、『現象に直接アプローチする』【技術】へと変遷へんせいした。


 だが【技術】は【魔法】と異なり莫大ばくだいなコストが掛かる手法であるため、干渉力の方法もすたれることはなく、枝分かれとまじいを繰り返しながら、【魔法】と【技術】が混在こんざいする今日こんにちへといたる。


 それが、この世界の歴史。


「だからこそ魔法と技術、双方の発展が停滞ていたいした、って意見もあるけれど。どうなのでしょうね~」


 イチコさんが、何気なく声漏らした。


「まあ……【太古から失われた術式】がどんなにあろうとも、私たちは困らずに日常生活を続けられるわけだから、特に、良いも悪いもない気がするけれど。フフ、それに、ふとした危険があっても、とても頼れる鍛冶師さんたちが、この場所を守ってくれるしね」


「……フフフっ! まっかせて、イチコさん。何かあれば、【リョウガ鍛錬所たんれんじょ】がうけたまわります。ねっ、兄貴アニキ!」


「うん。――その時は誰かの場所を守れるよう、尽力じんりょくいたします」


「頼もしいね」とイチコさんが眉を傾けてほほ笑むと、周りの男の人たちから「なぬッ!?」みたいな視線を送られた。――……半分はモニカへ送られた笑顔ですから。


 その後、必要なものを買い揃えて、お値引きばかりかいくつか商品をサービスまでしてもらって、【イチコドール魔法具店】をあとにした。


 ちなみに。

 あとで知ったのだが、イチコさんがサービスしてくれたいくつかの商品は元々、購買促進はんばいそくしんの試供品として、時期を見てボクらへプレゼントしてくれる予定の魔法具であったのだという。


「フフっ♪」


 一城いちじょうあるじなだけあって、イチコドールさんはなかなか、商魂抜け目のない人なのだ。



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