第16話 恋ちゃんの超絶甘えたいデー!


 一学期も終盤に迫り、テストが近づく。

 俺は部屋でテスト勉強に励んでいた。


 俺は夏川姉妹に比べたらステータスはてんで劣る。情けない話だが、男の俺より女のあいつらの方がスペックは上なのだ。


 だから、俺はいつもはそこまでテスト勉強に力を入れてなかった。

 夏川姉妹に劣るとは言っても別に俺も頭が悪いわけではない。だからこそ、テスト勉強も最低限しかやってこなかった。


 だけど、今年の俺は一味違った。

 なぜなら、恋にパパとしてカッコ悪い所は見せられないからだ。


 だからこそ、俺は毎日勉強漬けになっている。


 俺はひたすらに机に向かって筆を走らせる。

 

 勉強は嫌いなはずなのに、恋に「すごぉいパパ!」って言われるところを想像するだけで、不思議と力が湧いてくる。


 いつからだろうか……。こんなにもあいつのパパとして自覚し始めたのは……。


「……おっと、いかんいかん。勉強勉強」


 その時、突然部屋の扉が「バァン!!」っと開かれた。俺はビクッと肩を震わせてそちらを向く。


「パパ! 遊んで!」


 恋が満面の笑顔で言う。

 だが、俺は勉強中のため、心苦しいが断ることにする。


「ごめんけど今はちょっと勉強で忙しいからまた次の機会にしてくれ」


 そう言って俺は身体を再び机の方に向いて勉強を再開する。


 「むぅーー!!」っと背後で恋が怒っているのが分かる。

 俺は構わず無視する。


 しばらくすると、恋が俺の隣までやってきてテス勉に集中する俺の頬を指で突いてくる。


 ぷすっ ぷすっ ぷすっっと、何回も突つかれ続ける。


「あぁもう! なんだよ邪魔するなよ! 勉強中って言ってるだろ?!」



「だって勉強なんかより恋と遊んでほしいんだもん」



「勉強なんかって……お前なぁ」


 俺は手で頭を抑える。

 恋は引き下がる気はなさそうだ。言うことを聞かなきゃ後々面倒なことになるのは目に見えている。


 (ま、1日くらいいいだろ。サボっても……)


 俺は握っていたえんぴつを机に置き、椅子から立ち上がる。


 「パパ?」



「んで、何して遊ぶんだ?」 


 

「え? 遊んでくれるの?!!」



「なんだ? いらないなら俺は勉強に戻るぞ」



「ダメだよ! ぜぇぇったいだめ!」



「お、おう……」


 恋の勢いに俺はすこしたじろぐ。


 恋が「ちょっと待ってて!」っと言って部屋を出ていった。

 言われたとおり、俺は座ってスマホでも見ながら時間を潰している。


 しばらく待っていると、恋がなにやらボードゲームっぽいものを持ってきた。


 「恋、それなんだ?」


 俺は恋が持ってるそれに指をさして聞く。

 恋は普通に「人生ゲームだよ?」と言った。


「あのなぁ、人生ゲームなんて二人だけでやっても面白くないと思うが……」


 俺がそう言うと、恋は悲しそうに涙ぐむ。

 俺は慌てて言葉を訂正する。


「いいいや、うそうそ……! 恋となら何やっても俺は楽しいと思うぞ!」


 俺が必死の作り笑顔でそう言うと、恋はまだ微かに涙ぐみながら「うん……」っと頷く。


 だが、かと言って2人だけの人生ゲームとなると流石に味気ないのも事実。


「よし! 俺が面白い参加者達を集める!」


 俺はそう言ってあるスマホに着信をかける。

 そいつが出て、俺は短く事を話す。そいつは快く承諾してくれて、今から家に来てくれることになった。


「パパぁ誰に電話してたの?」



「ふふ、それはそいつが来てからのお楽しみだよ」



「よぉ親一ぃ、恋ちゃん!」



「ひゃぁぁぁ!!?」


 突然の背後の声にびっくりした恋は俺の後ろに素早く隠れる。


 そいつ、快人はそれを見て愉快そうに笑っていた。


 恋はそれを見て「もう!」っと怒りをあらわにしている。だが、全くと言っていいほど怖くない。


 とりあえず俺は快人に呆れながら聞く。


「なぁお前、まだ電話してから2分くらいしか経ってないんだけど……。来るの早すぎない?」



「ははは! 細かいことは気にすんなって! よっと」


 ヘラヘラした様子でそう言って俺の対面に座る。

 真ん中のボードを挟んで。


「よし、とりあえず快人は確保だから、あとはあいつらだな」


 そう口にして、俺は再びスマホにかける。

 しばらくしたあと、そいつは応答した。


 先程の快人同様、俺は事情を話す。そいつも今日は予定もないってことで、快く承諾してくれた。


「パパ? 今度は誰に電話してたのー?」



「今度も秘密。すぐに来ると思うから」



「大体予想はつくけどなー」


 快人が肩ひじをつけながら呟く。

 それから5分後、すぐにそいつらはやってきた。


「やぁ親一ぃ、来てあげたわよ!」



「こんにちは親一くん! 恋ちゃんに快人さんも!」



「ママぁ?!!」


 恋が夏川姉妹を見て驚く。

 そして同時に美里の腰回りに抱きついた。


 たかがボードゲーム1つでこれだけ集まるとは全員とんだお人好しである。


「おう。それじゃあ早く座れ」


 俺がそう言って二人は頷く。

 そして、俺、美里、美咲、快人は中心の机の上にあるボードゲームを囲むように座る。


 だが恋はというと……。


「ふふん♪」



「…………」


 なんか満足そうに俺の膝の上にちょこんと座っていた。身長が小さくて小柄なので、身長が高い俺はボードゲームも問題なく見えるが、なんかいろいろと落ち着かない。


 「お? そこ恋ちゃん専用の特等席じゃん♪」


 快人が面白そうに言った。

 恋は「うん!」っとニッコリ笑う。


「ぐわぁぁぁ!?」


 その眩しい笑顔に、快人の目はやられてしまうのだった。


 謎である。
















 




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