「凍える心と、溶けゆく誓い」
冬の夜は冷たく、蒼影学園の校庭はほのかな雪明かりに包まれていた。街灯の光が白い地面を照らし、二人の影が長く伸びている。空気は張り詰め、静けさが辺りを包んでいる。そんな中、インクは公園のベンチに腰を下ろした。彼の手には、まだミリアムの声が頭から離れないスマホが握られている。
「凍える心を溶かすのは、言葉だけじゃ足りないのかもしれない」
そう思いながらも、彼は諦めずに歩みを止めなかった。夜空に浮かぶ星々が、彼の孤独と誓いを静かに見守っている。
街灯の明かりに照らされるインクの顔は、凍てついた冬の夜の中でさえ、どこか温かさを秘めていた。彼は自分の心に誓った。
「ミリアムを、必ず……」
その時、遠くから小さな足音が聞こえた。音は次第に近づき、凍てつく風の中を震えながら歩くミリアムの姿が見えた。
「先輩……」
声は弱々しくも確かな意思を宿していた。
ミリアムの瞳には、かつての怒りと悲しみの影が消え、代わりに誠実な光が灯っていた。
「ごめんなさい……また傷つけてしまって」
彼女の声は震えていたが、嘘偽りのないものであった。
インクはゆっくりと立ち上がり、彼女の手をそっと握った。冷たかった指先に少しずつ温もりが広がっていく。
「俺も謝る。全部をうまく伝えられなくて、迷わせてしまった」
互いの手が絡み合い、冬の夜の冷たさが少しだけ和らいだ。
「これからは、もっとちゃんと話そう。誤解も疑いも、全部乗り越えていきたい」
ミリアムは涙をこぼしながら微笑み、頷いた。
「うん、私も。あなたを信じたい」
ぎこちないながらも確かな絆を、二人は少しずつ紡ぎ始めたのだった。
数日後、蒼影学園では冬の終わりを告げる卒業式の準備が進んでいた。教室には新しい希望が満ちている。春の気配が校舎の中に柔らかく差し込み、生徒たちの顔にも自然と笑みがこぼれていた。
インクとミリアムも、かつてのすれ違いを乗り越え、少しずつ距離を縮めていた。しかし、心の奥底に残った傷はすぐには癒えないことを、二人は知っていた。
「先輩、今日はありがとう」
ミリアムがそっと小さな紙包みを差し出した。包みの中には、二人で撮った写真と、小さなメッセージカードが入っていた。
『これからも一緒に歩こう』
インクはそれを見て、胸が熱くなるのを感じた。表情は言葉を超えた温かさに満ちていた。
「こちらこそ、ありがとう。これからもずっと一緒だ」
二人は見つめ合い、過去の痛みを抱えながらも未来に希望を誓った。
校庭では、木々の芽が小さく膨らみ、春の光がやさしく二人を包み込んでいる。
その瞬間、世界が少しだけ優しく見えた。傷ついた心も、ゆっくりと癒え始めていたのだ。
蒼影学園の空は、暖かな春の光に照らされていた。
次回予告
第19話「春風の中で、始まる約束」
過去の傷跡を乗り越えた二人。
しかし、新たな試練が彼らを待つ。
春風が運ぶのは、祝福か、それとも――
どうぞお楽しみに。
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