花火師になりたいのでまずはダンジョンを爆破しようと思います

とらすき

第1話「祭りの日」


「今日も探索終わりました」

 俺はカウンターのお姉さんに報告する。


「で? 今日は何を持ってきたわけ?」

 お姉さん……山田さんはキレ気味で尋ねてくる。


「そんな顔しないで下さい、美人な顔が台無しですよ」

 

「当然のように既婚者に色目を使うな。そして毎日のように厄介事を持ってこられるこっちの身にもなってくれ。はあ……それで?」


 俺はいつものように腰についている小さなから魔石を引きずり出す。


「え〜と、なんか分かんないトカゲの魔石になんか馬鹿でかいスライムの魔石と全身燃えてる焼き鳥の魔石ですね。後は細かい魔石が百数個くらいですかね」


「要するに後は私たちギルド職員に鑑定は丸投げすると……」


「そうなりますね……」


「あのね、どうやって手に入れたのかとかは聞かないけどね、ここは田舎の素材もしょっぱくてモンスターは弱いけど出てくる量だけ馬鹿みたいに多いから初心者も寄り付かない所謂過疎ダンジョンって呼ばれるダンジョンだよ?」


「なんでギルドも把握してないような鹿が毎日のようにでてくるわけ?」


「聞かないとか言っといて聞いてるじゃないですか。とにかくいつも通りよろしくお願いしますよ?」


「それにしても気になると言いますか……」

 俺は財布から札束を取り出す……。


「一万」


「ちょっと待って、落ち着いて」


「二万」


「金で黙らせようとするな!」


「こんだけ言ってもいつも受け取ってくれないじゃないですか」


「当たり前だ!学生くらいの年の子供から金を受け取れるわけないだろ!」

 そう言ってもなんだかんだギルド本部から誰が採取したのか隠してくれている山田さんには頭が上がらない。


「本当に助かってます。普通に俺がこんなにやりたい放題してることがバレたら困るので……」


「子供を護るのは大人の義務だよ」


「惚れました。既婚者でなかったらプロポーズします。」


「だから年上をからかうな!」

 あと俺が十年早く産まれていればワンチャンあったのか……。残念だ……。


「にしても、魔石採集量ランキングには載っちゃってるんですね。流石に政府のシステムには抗えなかったか……」


「あれは実名でなくても良いんだから別に不都合はないでしょう?倒してきたモンスターの素材の量と魔石の数がドロップ確率考えても半分くらいしか合わないのは黙認してるんだからそれくらい我慢しなさいよ。日本ランキング10位に載ってるやつは何だ?って一時期話題になってたんだからね?」 


「バレてたか……」

 あっぶねえ!!!

 実際は1割程度しかギルドに提出してないことはバレてなさそうだ……。


「個人で数千個の魔石を保持して何をしてるんだか……。危ないことはしないようにね?」


「善処します……」

 そう言って俺はダンジョンの受付から出てギラギラ光る日の光を浴びながらバイクで帰路に着いた。



 家の前に着いたので門を抜け、指紋認証でドアを開ける。

「ただいま〜」

 おかえりなさいと言う言葉は返ってこないが、つい言ってしまう。

 

 取り敢えず2階に上がって冷蔵庫からコーラを取り出す。

 この歳でこんなソコソコ大きい家に一人で住んでいるのはの財産の残りのおかげだが、形として残ってるアイツの財産はもうこの家と家電用品、それと一階の機械だけになってしまった。まあ、最近の稼ぎはかなり多いのでこの家の維持と食生活には困っていない。一階はほとんどあの機械を置くために使っているため二階が主な居住スペースだ。



「今日も疲れたわー。さっさと魔石数えて仕分けして寝るとするか。」

 そう言って俺は魔石を仕分けながら数えていく。

 

 もう何時間経っただろうか、もう日は沈み月が出ている。

 「千二百十二……千二百十三!!」


「やっと終わったあ!! 結果は…… 過去最高じゃないかコレ?!」


 結果として

 F級魔石810個

 E級魔石334個

 D級魔石55個

 C級魔石13個

 B級魔石1個

 ギルドに提出した魔石を含めていないが、それでも過去最高の魔石数を叩き出した。


「確か今日は近くの河川敷で町内会のお祭りだったなせっかくだし盛り上げに行くか」

 そう言って俺は一階に降りていつも通り、馬鹿でかい機械に隣接した馬鹿でかいカゴに魔石を一気にぶち込む。


「E級二百個に……E級百個……Dが十五個に……Cも五個使うか……。」

 ホログラムで出来たウィンドウが目の前に浮かび上がったので、タッチして数の調整と調合方法の指定を行う。


 籠の中の魔石がベルトコンベアで機械に取り込まれ見えなくなる。

 目の前のウィンドウの前に魔法陣が浮かび上がる。機械が輝き出し、高熱を放つ。俺の額から汗が吹き出した。


「それじゃ転送できるようにペアリングして……」

 俺の人差し指に嵌めてある指輪のサファイアがぼんやり青く光る。


「じゃ河川敷に行くか……」


 


 歩いて河川敷に向かうと、町内会のお祭りも終わりかけのようで、子供達が線香花火をしていた。


「こんな時間に来るとは勿体ないね。もう屋台とかも終わっちゃったよ。お面だけ買ってくかい?」


「コレ一つお願いします」


「毎度あり!」


 お面屋さんで白いキツネの面を買った。早速被ってみる。ふぅ……。

 やっぱり落ち着くなあ祭りの雰囲気は……。


「うっ……うっ……グスン……ママぁ……」

 

 見たところ5歳くらいだな……迷子っぽいな


「ボク? ママとはぐれたのか? ……そうかそうか……大丈夫だ。お兄ちゃんが探してやる」

 俺が笑顔で微笑みかけて話しかけた。


「うっ……うっ……バケモノっ……」


「だ〜れがバケモンじゃい!」

 

 コイツ本当に迷子なのか?


「うっ……うっ……グスン……ママぁ……」


「悪いお兄さんじゃないから大丈夫だよ。お母さん探しに行こう?それとも先に線香花火やる?」


「やる……」


 線香花火を配っているおじさんから残り一つだった花火を貰い手渡す。ライターで火を点けてもらい一緒に眺める。


「キレイ……」


「そうか、それは良かった」


 すっかり子供は泣き止んで、俺は安堵する。


「あっ……」


 ポトリと花火の先が落ちた。


「もうお祭り終わっちゃった……お母さんにも会えないまま……」


「大丈夫、狐のお兄さんのマジックを見せてやる」



 そう言って俺は右手の人差し指を宙に向けた。


「最高の花火まつりを見せてやる」


 右手の親指と中指を擦り合わせ音を出す。

 

 

 パチン!


 乾いた音が鳴った……。


解放リリース


 人差し指の指先から何重もの魔法陣か浮かび上がり、それぞれが透き通る空のような青色の光を放っている。


「きれい……」

 子供が目を輝かせる。

 周囲の視線が気になるので子供を脇に抱え走って離脱する。


 少し離れたところで止まって言う。


「ここからが祭りだ」



 魔法陣が少しづつ上空へ昇っていく、人々が騒いでいる声がするが、どうせすぐ聞こえなくなる。


 「9時……ジャストだ。」


 魔法陣から音が昇っていく。



 祭りの遥か上空に巨大な花火が咲いた。


「わぁぁあ!!」

 子供は目をひん剥いて見つめている。

 

「コレでお母さんも花火の近くに来るだろう、それまでは花火と魔法陣が見やすいこの場所で見ていくぞ」


「ありがとうお兄ちゃん!!」

 子供にこんな喜んでもらえるとは……。


 「三百発以上の花火を仕込んだかいがあったな」


「まって? お兄ちゃん? さっきの一発で終わりじゃないの?」


「なに言ってるんだ? さっきのは一番小さい花火だぞ?」


「え……。」


 花火が何発も打ち上がり始める。今回は近場に海がなくて祭りの近くで花火を打ち上げる必要があったため、火の粉が地面にまで降ってこないように高くで打ち上げる必要がある。


 それにより、低空で爆発する花火は使えない。

 魔石から出来ているので人間にはそこまで大きなダメージが入ったりしないが、子供達への影響があるかもしれない上、屋台が燃えたりする危険性があるため低空の花火は使えない。


 すると必然的に、派手さを求めるためには馬鹿でかい花火を使うことになる。


「やっぱ祭りは派手じゃなくちゃ」


 一気に何十発の花火が空高くまで上がる。


 純白の美しい火の華を咲かせた……。


「じゃあラストだ。しっかり見とけよ?」


「う、うん……」

 なんか引かれてるのは気の所為だろうか?

 うん……気のせいだ気のせい。

 俺は右手の指輪のついた指を上空に向けた。


「展開」


 先程の魔法陣が球のように膨らみ弾ける。


 光が眩しくて目を瞑る。

 光が収まり上空を見上げると……。


 見渡す限りの空が百以上の魔法陣で埋め尽くされていた。


解放リリース


 全ての魔法陣から花火を放つ。見づらくなると思うので魔法時は消す。


 周囲の住宅街などの上にまで展開した魔法陣なども全て花火を放ち、消え去った。



 河川敷の小さな祭りには、その日、満開の花火が咲いた。




 その次の日、町内会の小さな祭りには騒音被害などのクレームが少なからず来た。しかし、それを大きく上回る感謝の言葉が届いたという……。



 

 













 


 



 


 





 







 




 


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