第2話

忍びない気持ちと少しはらはらした感じがしている。

 これは、きっと僕がやるべきことなのかもと思っていた。

 それと、古びた本はまるで僕をここまで【道案内】したかのように淡い光を月の明かりと共に帯びる感じもした。


 泉のほとりに立ったまま、僕はそっと本を開いた。ページが風に揺れ、ひとりでにめくられていく。そして止まった先には、一つの詠唱文と見覚えのある図形――反魂の紋章。

 まるで本が


 【ここから始めろ】


 と示しているようだった。

 僕は喉が渇くような緊張を感じながらも、図形を泉の石畳に指でなぞるように描いた。すると、その線が淡く光り始めた。


 「ほんとうに……反応してる……」


 信じがたい光景だった。

 けれど、心のどこかで僕は知っていた。これは偶然じゃない。僕がこの本を開き、この泉に立っていることすべてが、何かに仕組まれていたようにすら思えた。


 泉の水面が静かに揺れ、中心から微かな音と共に、光の粒が立ち昇る。まるで夜空の星が逆さに降ってくるような、不思議で、そして神聖な気配があたりを包んだ。僕の手の中の本もまた、月明かりに共鳴して、さらに輝きを増していた。


 「始まる……のか?」


 僕の小さな問いかけに、誰も答えない。けれど確かに、何かがここから動き出す。

 そんな確信が、胸に灯った。


 光の粒は泉の中心に集まり、やがて一つの形を成し始めた。人のような、けれど輪郭がぼやけたそれは、まるで“記憶”が立ち上がるような姿だった。

 僕は息を呑んだ。本に書かれていた“魂の残滓”という言葉が、頭をよぎる。これは、反魂の魔術の一端なのか……?


形は僕の方を見つめているようで、声なき声が頭の中に響いた。


 ――【お前か、扉を開けたのは】――


 思わず一歩下がるが、不思議と恐怖はなかった。ただ、確かな繋がりのようなものを感じていた。


 「君は……誰?」


 と、問いかけた。


その瞬間、光の形がふっと消え、泉は再び静寂に包まれた。本のページには、新たな文字が浮かび上がっていた



 ――【始まりの章、開かれし者へ】。


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