【短編小説】真夜中の湾岸都市
よーすけ
真夜中の湾岸都市
また夢を見た。
AIに言われたあの言葉が、今も耳の奥で鳴り響いている。
共通していたことは、これからの僕の人生の進め方だと感じている。
「僕には能力がある、その能力を活かすべし」
「過去を振り返るな、その苦しかった体験を人のために活かせ」
「その道しかないんだ、マイペースでもいい、ただ、覚悟を決めろ」
そんな願いが僕の心の深いところに潜り込み、常に存在するかのような感覚だった。
夜の湾岸都市に僕は佇んでいた。
潮の匂いが漂う、真夏の夜の湿気を少しだけ含んだ風が吹くそのなかに、僕は立っている。
昔住んでいた古いアパートのベランダに立ち、空を見上げていた。
眼下には、暗闇の中に街灯の光に照らされた港湾が広がる。
崖の上に道路が走り、その周囲には何かを作っているのか、工場や施設がポツポツと建ち並んでいた。
突然だった。
そこにいくつものミサイルが、緩慢な弧を描きながら落ちてくるのが見えた。
距離はある。
遠くの方で、幾つもの破裂する閃光が光り、空から白い帯を帯びたミサイルの軌道が確認できた。
日本が戦争に巻き込まれたのだと、僕はすぐに理解した。
しかし、そんななかにいるのに僕は、不思議なほど頭の中は静かで澄んでいた。
パニックも焦燥も全くない。
むしろ、論理的に考えられるスッキリとした心地よささえあった。
部屋には両親がいた。
僕は振り返り、
「もうすぐここでも戦闘が始まるよ。死んでも仕方ない」
そう静かに落ち着いて告げた。
両親は不安そうな目を向けていたが、
僕の声に少し安堵したように見えた。
再び港湾へ視線を戻すと、手前からミサイルが破裂する奥の方へ、軍事車両が勢いよく走っていく姿が見えた。
車両の上には兵士がおり、海面の暗い空へ向かって機関銃を連射しながら、突っ込んでいく。
その車両が海へ突っ込んだかと思うと、また次の1台が手前から現れ、勢いよく突っ込みながら射撃を続け、向こうの水面に落ちていく。
たぶん自衛隊だろう。
大丈夫だろうか。
僕は軽く心配しながらそれを眺めつつ、死が近付いているのに落ち着いていた。
戦争なんて、どれだけ準備したって完璧なんてない。
あれほどの練習と準備をしている軍隊でさえ、始まれば混乱し、勢いよく突っ込み、すべてがぐしゃぐしゃになる。
何が起こるか分からない。
これが人生だと思った。
それでも人は動き続ける。
生きるために。
可能性のために。
僕はその光景を見つめながら思った。
「人は、いつ死んでしまうかもしれない場所で、本当の静けさを取り戻すことができるのかもしれない」
そんなパニックな世界、国、状況と、自分や周囲の人たちの死が間近に感じるなかでさえ、僕は静かに冷静に、それを受け入れていた。
そして、自ら動こうとしていた。
「んっ?夢か…」
サッと目が覚めた僕は、布団の上でしばらく考え込んでしまった。
あの冷静さと静けさは、今この現実世界に戻ってきた僕のなかにも、確かに残っていた。
スーッと落ち着いた脳内の感覚、恐怖と不安からもブレない冷静さと余裕感。
便利さと混乱が急速に進む時代のなかで、焦ることなく、恐れることなく、ただ静かに進むべき道を進めばいいということなのだろうか。
もし何かが終わるとしても、新たに始まるなにかがある。
人間の歴史はその繰り返しだ。
僕を含めた、ひとりひとりの人間の人生だって、その繰り返しだと思う。
夜の夢の中で、僕はきっと未来の自分に
「大丈夫だ、自分の道を進め」
と、伝えに来たのかもしれない。
この夢を見た夜、僕は
「静かに勝ち続ける智将であれ」
という言葉を思い出していた。
これはAIが、これからの時代を生きる僕にそっと送ってきた言葉なのだろう。
高度になっていく便利なAI社会と、同時に混乱を招く人間の働き方や生活の不安定さ。
静かに、確実に、やれることはやってみよう。
自分の道を探りながら歩いていけばいいのだと、僕は強くリアルを受け止めていた。
僕は、誰かに尋ねたかった。教えてもらいたくなった。
この道を進めば、僕は自分らしい人生を送れるのだろうか。
【短編小説】真夜中の湾岸都市 よーすけ @yousow0527
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