2-7 断絶と緩和
閑静な昼下がり。
ユフィの美味しいお昼ごはんを食べ、商品メンテの合間で一服しながらのーんびりしてたところで、店の前に設置した魔道具がお客さんの来訪を教えてきた。
「あら、珍しい」
こんな辺鄙な場所にある店をわざわざ探してくるなんて。フリオがまた新商品の実験台になりに来てくれたのかしら、と思ったけど残念ながら違った。
扉を開けて入ってきたのは見慣れた三人組。もう会うこともないと思ってたのに驚いたわね。
「いらっしゃい。誰かと思ったわ。今日はどういった御用かしら?」
いつもならキセルを仕舞うのだけど、コイツらだからね。変わらず吹かしながら流し目で一瞥してメンテナンス作業を再開すると、呆気にとられてたジャンナが気まずそうな笑みで話しかけてきた。
「や、やあ、ミレイユ! 久しぶりだね? その……元気にしてたかい?」
「ええ、おかげさまで。好きなことしながらのんびり暮らしてるわ」
「そ、そうかい。ええっと、この店はアンタの店なのかい?」
「そうよ」
「はっ! このチンケな店がテメェの店ってか!」
ジャンナの「余計なことを言うんじゃない」って視線を無視して、クーザリアスが嘲り顔で前に出てきた。相変わらずね。
「偉大なA級探索者パーティを抜けて何してやがると思えば、客もいねぇこんなボロい店の店主とはな!」
「小さくても一国一城の主、素敵でしょ?」
さらっと返してやると、期待した反応じゃなかったみたいで舌打ちが聞こえた。ダレスも口には出さないけど、相変わらずクーザリアスを止めるでもない。ジャンナはちょっと変わったみたいだけど、今さらね。
「……アンタ、本当にミレイユ、なんだよね?」
「そうよ? 他の誰に見えるかしら?」
「い、いや、アタシたちといた時に比べてずいぶんと雰囲気が変わったと思って」
「そりゃいろいろとあったからね。たとえば、モンスターごと串刺しにされた挙げ句、迷宮内に放置されたりとか、ね」
事実を突きつけてやると、三人とも押し黙った。ま、そのことで今さら恨み言は言わないわ。嫌味も皮肉も言うけど。
ともあれ、人を見下すしかできないバカに私が付き合ってやる必要はない。
「それで、今日は何の用かしら?」
「ああ、実は――」
「迷宮探索用の魔道具を買いにきて
口を開きかけたジャンナを押しのけて、座ってる私をクーザリアスが偉そうに見下ろしてきた。こうして威圧するしかできないなんて、ホント小さい男だわ。
「お前が自作したという魔道具を他の探索者が使っているのを見て欲しくなった」ダレスが横に並んだ。「迷宮探索に必要なものを適当に見繕え」
「店にあるものを好きに見てくれて構わないわよ?」
「俺はよく分からんからお前に選ばせてるんだ。だが、不良品をつかませるようなことをしたら……分かってるな?」
へいへい。こっちも相変わらず命令口調だし、人任せで自分で勉強しようともしないんだから。ま、いいわ。それくらいやったげるわよ。一応はお客さんだし。
私が改良を重ねた小型コンロや素材剥ぎ取り用のナイフ、浮遊照明とかを棚から持ってきて動作確認をする。問題なさそうね。
「いくらだい?」
「そうね、これでどう?」
値段を書いた紙を三人に見せる。するとその途端、クーザリアスがカウンターをバンっと思い切り叩いた。
「どういうことだッ!? 相場の十倍以上じゃねぇか!」
「阿呆ね。アンタのいう相場は古いタイプの商品でしょ? 私が高性能に改良してるんだからそりゃ値段も上がるわよ」
「だとしても、だよ、ミレイユ」
「あと、貴方たちが私にしてきたことへの慰謝料も上乗せしてるわ。ま、そっちの比率の方が圧倒的に大きいけど。なんなら、迷宮探索の報酬を適正に分配しなかった分まで上乗せしてあげてもいいんだけど?」
三人に売れようが売れまいがどっちだっていいしね。元々想定してなかった客だし。
「さあ、どうすんの? 買うの? 買わないの? まさかA級探索者がこの程度も払えないわけないわよね?」
プライドを刺激するよう言葉を選ぶと、三人が顔を見合わせ、ジャンナが唇を噛んで視線を落とした。え? うそ?
「まさか、本当に払えないの?」
「うっせぇ! 全部テメェが悪いんだろうが!」
怒鳴りながらクーザリアスが顔を近づけ威圧してくる。ちょっと、逆ギレもいいとこだわ。私は何もしてないし。
「何もしてねぇわけねぇだろ! 勝手に辞めやがって!! しかも辞め際にギルド内で適当こきやがったせいで、ロクな人間が寄って来ねぇ! どうせ辞めた後も俺らの悪口を言いふらしてんだろ!?」
「言いがかりはよして。それは自業自得でしょ?」
「黙れ! テメェのおかげで何もかんも上手くいかなくなっちまった……せっかくA級探索者にまで上り詰めたっていうのにだ! だから責任取って安くしろや!!」
「はっ! 嫌よ」
あと、その臭い口を寄せないでよ。身体強化して鼻っ柱にデコピンをお見舞いしてあげると、クーザリアスが大きくのけぞって鼻を押さえた。
でもだいたい事情は理解したわ。私の代わりを連れてきたけど、どうせ私の時と同じような扱いをしたんでしょ?
「それでさっさと見切りをつけられて、斥候無しで潜ったはいいもののモンスターに急襲されたりして失敗続き。こんなとこかしら?」
推測を口にすると、三人とも押し黙った。どうやら図星みたい。三人とも戦闘バカだから斥候役なんて真似できるはずないのに、おバカさんだこと。
当然、そんな三人にお金の管理なんてできるはずもない。クーザリアスとダレスは、相変わらずバカスカ高い物飲み食いして、ジャンナは男娼に入り浸ってるだろうし。
はぁ、と私はこれみよがしにため息をついた。ホント、こんな連中の中で私もよくやってたわ。自分で自分に呆れるしかない。
「しかたないわね。安くしてあげてもいいわ」
「本当かい!?」
「ええ。ただし」私は人差し指を三人に、そして次に下に向けた。「土下座して私に謝れば、ね」
その瞬間、クーザリアスの顔がいよいよ憤怒に染まっていった。憎悪とも言ってもいいかしら。感情をむき出しにして私を食い殺さんばかりである。
人を殺しかけて、それを頭を下げるだけで許すまではいかなくても水に流してあげようって言ってるのよ? それくらいもできないのかしら? できないんでしょうね、クーザリアスは。奴隷の如く完全に見下してた私から逆に見下されるなんて屈辱、プライドが許さないでしょうし。
ダレスも同様で、クーザリアス程じゃないにしろ「調子に乗りやがって」と言わんばかりににらみつけてきてる。唯一、ジャンナだけは逡巡しながらも土下座しようとするけど、それを二人が止めた。あっそ、まぁ私はどっちでもいいの。
「なら私が提示したお金を払って。でなければ帰って」
「黙って聞いてりゃ好き放題言いやがって!」
いよいよクーザリアスが私の胸ぐらをつかみ上げた。
だけど慌てない。私の目の前に一瞬でデバッグ画面が二面現れ、実行ボタンを頭の中で押した。
「な……か、体が――ガハッ!?」
私がかけたデバフ魔法のせいでクーザリアスの体が沈み、その隙に彼の腕をひねり上げて引き剥がす。そして身体強化した腕で、逆に彼の首をつかんで巨体を軽々と持ち上げた。
彼の体を扉に向かって放り投げる。デバフ魔法で弱体化させたとはいえ、クーザリアスの実力は確か。受け身を取って彼は立ち上がるけれど、その目には明らかな動揺が見て取れた。
ほら、いらっしゃいな。私はカウンターを乗り越えると指先でクイッと招く仕草をした。
「舐めた真似をっ!!」
私の挑発に乗ったクーザリアスがもう一度つかみかかってくる。鋭い拳が私の顔面目掛けて迫ってくるけど、遅い。スッと体を横にスライドさせて避けると、代わりに私の手のひらが彼の顔面をつかみ、そのまま腕を振り抜いた。
勢いよくクーザリアスが背中から床に叩きつけられ、扉に向かって転がっていく。仰向けに倒れ込んで激しく咳き込む声が聞こえた。
「げほっ……! ミレイユ、テメェ――っっ!?」
そこにさらに氷魔法を展開し、空中に長い鋭利な魔法の刃が浮かび上がった。私が手を振り下ろして彼の股間近くに深々と突き刺してやると、彼から「ひっ!?」って情けない声が上がった。
「クーザリアスっ!? ミレイユ、お前――」
風魔法でダレスの頬も薄く斬り裂いてあげる。ああ、ダメね。店の商品を一つ壊しちゃった。早く出ていってもらわないと。これ以上彼らと話してると――店まで壊してしまいそうだわ。
「もうこれ以上話すことはないわ――今すぐ出ていって」
「くっ……こんな店、こっちからお断りだ!」
「俺たちをコケにしたこと、後悔させてやる! この店だってすぐに潰してやるからな!」
「ええどうぞ、ご自由に。その時は――こっちも全力で潰しにかかってあげるわ」
冷たく射抜く。二人は歯ぎしりをしながら、けれどそれ以上何も言わずに乱暴にドアを開けて出ていった。
「……申し訳ないねぇ」
「そう思うんならジャンナがしっかり手綱を握って。さっきはああ言ったけど、私は貴方たちを許すつもりはないわ。同時に金輪際関わるつもりはなくて、そっちが寄って来なければ私も何もしないつもりよ」
私の考えを伝えると、ジャンナは大きく息を吐き出してから頭を下げた。
「ごめんなさい。今回のことも、そして……前のことも」
「……謝罪は受け取ったわ。だからもう行って」
「ああ……もうここには来ないようにするよ」
「そうして。だけど――」私は言い添えた。「一人で来るなら、歓迎はしないけど、普通の客として扱ってあげるわ」
「――ありがと」
振り返らずにジャンナも出て行く。ようやく店にまた平和な時間が訪れた。
「……疲れた」
ため息が思わず漏れた。三人がやってくることも十分想定はしてたけど、思ってた以上に相手をするのに疲れた。
自分の手を見れば、かすかに震えてた。クーザリアスに負けるとも思ってないけど、やっぱり心の奥底に刻まれた記憶はそう簡単には払拭できないってことね。
「ま、気持ちを切替えていきましょ」
頬を叩いて立ち上がる。ユフィがそろそろお買い物から返ってくるでしょうし、辛気臭い顔は見せられないわ。フリオから頼まれた魔道具の検討でも再開して気を紛らわしときましょ。
と思ったら、扉が空いてエリーが入ってきた。その顔はなんとも不機嫌そう。珍しいわね。どうしたの?
「お客さんッス」
ぶっきらぼうな言い方で吐き捨てるように言うと、その後ろから太った男がエリーを押しのけるようにして入ってきた。
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