1-3 コード




「いったいどうして……」


 疑問はつきない。けど私が生き返ったのであればそれはそれで行幸だ。依然重傷ではあるけど、パーティのリーダー――クーザリアスに刺された傷はかなり小さくなってる。さながら、日本のRPGゲームで例えるなら、死んでHP1で復活したってところかしら。その理由はさっぱりだけど、なんにせよ、動ける状態なのはありがたい。


「ともかくエリーを起こして早く脱出しなきゃ――」


 彼女を揺すり起こそうと肩に手をかけた――んだけど。

 ぞくり、と背筋が震えた。探索者としてこうしてモンスターと対峙してたのはずいぶんと前。でも、その時の感覚は魂に刻まれて忘れようもないみたい。ああ、これは――やばいかも。

 地面がかすかに揺れる。足音が近づいてきて、次第に地鳴りのように大きくなってくる。

 そして、それは現れた。


「……ほんっとうに、最悪」


 思わず悪態が漏れた。現れたのは、そこに転がっているのと同じアースドラゴン。いくら最深部に近いからって、なんでA級モンスターが二匹も同じ場所に現れるのよ。ひょっとして番だったのかしら? だとしたら――なおのこと最悪じゃない。

 果たして、冷たい汗を流しながらの推測はありがたくないことに当たったらしい。現れたアースドラゴンがその鼻先を死んだもう一匹に擦り付け、やがてその巨大な口からおぞましい咆哮を上げた。


「■■■■、■■っ――!!」

「無茶が過ぎるわ……」


 私を勝手に囮にして殺したクズのクーザリアスたちだけど、それでも彼らはA級の探索者だ。そんな彼らが、わざわざ私を犠牲にしてやっと倒した相手に、今度は犠牲にされた私が一人で立ち向かわなきゃならない。しかも私はお腹に重傷を負ってて、傍らには気を失った女性がいる。これを無茶って言わずになんて表現すればいい? だけど嘆いたって現実は変わらない。

 やらなきゃ、また死ぬだけ。震えながら大きく息を吐く。

 大丈夫、なんとかなるわ。社長を殺してやりたいような無茶苦茶な案件だって、最後には何とかしてきたじゃない。自分に言い聞かせ絶望感に蓋をして魔法を練った。


「■■■■っ――!!」

「っ……!」


 強化魔法の光に包まれた私は、エリーの体をつかんですぐにその場を離れた。

 その直後にアースドラゴンが突進してきて、私たちの直ぐ側を猛烈な勢いで駆け抜けていった。避けた先の迷宮の壁がけたたましい音を立てて崩れ、礫となって四散していく。

 危なかった。あのままだと二人揃って真っ赤なザクロになってたのは間違いないわね。

 だけど番を殺したのが私たちだと認識してる奴は止まらない。巨体にそぐわない敏捷さで振り返り、出口に向かう私たちを追いかけてくる。

 速い。怖い。後ろから迫ってくる巨体に踏み潰される直前、転がるようにして間一髪避ける。するとアースドラゴンはそのまま壁を破壊して、頭をめり込ませた。


「■■、■■っ……!」


 アースドラゴンがジタバタともがく。どうやら頭が抜けなくなったらしい。偶然だけど時間は稼げたっぽい。けど、唯一の逃げ道はアースドラゴンの巨体が塞いでしまった。

 おまけに――


「ぐ、げほっ……!」


 耐えきれず口を開けば、大量の血がこぼれ落ちた。はは、そうよね。腹に孔が空いた状態で動けばこうもなるか。ああ、なんて絶望的な状況。血と一緒に涙がこぼれる。


「せめて回復魔法が使えたら……」


 親や使用人に隠れて魔法書を読み漁ってたおかげか、威力はともかく、魔法の種類だけはたくさん使える。だけど回復魔法だけはものにならなかった。

 魔法構成は覚えてるからダメ元で使ってみる……けれどやっぱりダメ。なけなしの魔力が構成式に伝達されず霧散していくだけ。虚しく魔力の通わない魔法陣が浮かんだだけだった。

 思わず舌打ちが出る。ホント、肝心な時に私の魔法は役に立たない。これがプログラムだったらデバッグして問題点を探していけるんだけど。私は浮かんだ魔法陣をにらみつけた。

 と思ったら。


「は……?」


 視界に何かが突然広がった。

 それはパソコンのモニターみたいな画面で、中には魔法言語で書かれた文字が羅列してる。それがいくつも現れて、中央にはタッチ式のキーボードが浮かんだ。

 恐る恐る触れてみる。すると画面がスッと好きな場所に移動できて、キーを押せばチカチカとしたカーソルが移動した。


「ひょっとして――」


 これで魔法構成式が弄れるのかしら? まさかと思いながらも変数名を書き換えて押し慣れたショートカットを実行すると、エラーメッセージが表示された。


「なら――」


 これで魔法構成式を見直せば、私にも回復魔法が使えるかも。再び変数名を戻してデバッグを実行すると、違う箇所でエラーが生じた。


「……なるほど、だから私は使えなかったのね」


 魔素は魔素だけど、人の体を介して魔力となることで属性が付与されて、だけど回復魔法の構成式だとその属性が限定されてるってこと。なら属性の指定を私のものに変更してあげれば――


「■■■■ッ……!」

「くっ……」


 暴れるアースドラゴンが尻尾で周囲の瓦礫を弾き飛ばして私の頬をかすめる。鋭い痛みに一瞬手が止まるけど、それでも最後までコードを書き換えていく。


「できた……!」


 実行キーを押した途端、さっきまでの気が遠くなりそうな痛みが瞬く間に消えていった。

 それと同時に気づく。

 魔力が、ほとんど減ってない……?

 昔の私は、簡単な魔法を数回使っただけで疲労感を覚えるくらいしょぼい魔力しか持ってなかったはずだけど、今はその感覚がまったくない。

 いったい、どうして。回復魔法は、魔力の消費が少ない? そんなはずはない。優秀な回復魔法士でも数回も使えばしばらく休息が必要なはずだ。なら私の魔力量が増えたってことなんだろうけど……


「死んで日本で過ごしてる間に何が――」

「■■■■――っ! ■■――っ!!」

「って、そんなこと考えてる場合じゃない!」


 壁にめり込んでたアースドラゴンの頭が抜け、再び身の毛もよだつような咆哮を上げた。私たちの姿を認めると、また頭から突進してくる。

 怪我も治ってさっきよりも体は軽いけど、だからって速度は圧倒的に敵の方が上。かろうじて直撃は避けたけど、避けきれず巨大な体が私をかすめた。


「っく、ぅ……!」


 ただそれだけなのに、まるで電車にぶつかったみたいに弾き飛ばされる。ゴロゴロと地面を転がり、けれど何とか体勢を整えて顔を上げた。が、その瞬間私は固まった。

 視界に入ったのは高速で迫りくる尾撃。直感する。これは……無理だ。避けられない。魔法で強化してるとはいえ、アースドラゴンの一撃。ミンチ肉まではいかずとも骨が砕けて動けなくなるのは間違いない。

 終わった。来る衝撃に、二度目の死に目を閉じて備える。

 だけどそれはやってこなかった。目を開ければ、黒髪が私の前でなびいていた。


「早く逃げるッス!」


 目を覚ましたエリーが、立ち塞がってくれていた。





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