第5話 エルフの国からこっちへ丁稚 02

瑠花さんがふと目を離した隙に、エリアスは神妙な顔つきで戸棚のボトルを手に取りました。肉じゃがの甘じょっぱい匂いの元となる、その琥珀色の液体に、彼は敬虔な眼差しを向けます。「…なんと清らかな香り。これはきっと、聖なる森の精霊の油に違いありません」


 瑠花さんが「それは醤油だから」と声をかける間もなく、彼はその液体を自分の頭から豪快にぶっかけました。漆黒の液体が銀髪を伝い、彼の端正な顔を汚していきます。ツンとした醤油の香りが、台所中に一気に広がりました。


 「ああ…!神の祝福が、我が身に満ちる…!」恍惚とした表情で呟くエリアス。

 だが、瑠花さんの怒りは頂点に達しました。


 「ちょっと!何やってんの!醤油は頭にかけるものじゃないの!片付けなさい!」

 瑠花さんの雷のような声に、エリアスはビクッと体を震わせ、慌てて床にこぼれた醤油を拭き始めました。その姿は、まるで叱られた子どものよう。瑠花さんは、ため息混じりに彼の頭をタオルで拭きながら、醤油の香りに包まれたカオスな台所を前に、頭を抱えるのでした。

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