プロローグ 3

 はぅあぁぁぁぁぁっっっっ!


 恐怖の根源は相当怒っているらしく、鼻と口とかから『ふしゅるるるるぅぅぅっ!』って感じの、おかしな吐息をぶちまけている!


「お、おおおおお、落ち着け歩! お前は色々と勘違いしている!」

「何を勘違いしているって? 百合から聞いた話しだと、お前も喜んで協力してくれたと聞いたぞ?……この、下剤入りクッキーを俺に食わせる話しをなぁぁぁっ!」


 ああ、ソレ下剤だったんだ。

 てっきり睡眠薬か何かだとばかり。


「百合のヤツ……昨日、似た様なクッキーを俺に食わせようとしてたんだ……そして、アイツは……トイレを封鎖しやがった!」


 忌々しいと言わんばかりの形相で、歩は俺へと語り出す。


 そう言えば昨日、いきなり俺の家にやって来て、クラウチングスタート状態でトイレにまっしぐらだったなぁ……ああ、そう言う理由があったのか。

 俺の中にあった素朴な疑問が一つ解消された所で、歩の口が再び動いた。


「それでな? アイツはトイレを封鎖した状態でこう言うんだ……」


『トイレが使いたいなら、あたしと付き合って!』


「……って、な」


 ……うぁ。

 目に浮かぶ様だった。

 とんでもない脅しではあるし、やってる事は非現実レベルの代物だが、実際に起こった出来事なのだろう。


 ………そう。

 これが現実として範疇内に収まってしまうのが、歩の義妹……百合なのだ。


「昨日の今日だったからな? 流石に気付いたよ……ただ俺もさ? まさか輝までグルになって俺を陥れようとするとまでは思っても居なかったから、あやうく食いそうになったけどよ……?」


 そこまで言うと、歩はゆらぁ…………と、身体をユラユラさせながらも、俺へとゆっくり近付く。


 ……あ、マジで詰んだコレ。

 逃げる事も出来た筈なんだが、俺の足が動いてくれない。

 恐らく、リミットブレイクしてしまった俺の身体は、とうに限界を迎えていたのだろう。

 俺の膝はこう言っている。


『ひぃ……ふぅ………マジ卍』


「なんで卍なんだよぉぉぉぉぉぉっ!」

「なにが卍なんだボケがぁぁぁっ!」

 

 果たして俺の膝がマジ卍になった直後、再び怒気を孕んだ歩のがなり声が周囲に響いた。


「口元までクッキーを持って行った瞬間、こっちの肝がマジ冷えたわ!」


 だから顔が真っ青だったのか。


「そっからまたトイレが封鎖されてねーか確認しに行ったぐらいだ!」


 ああ、だからソッコー部屋から出て行ったんだ。

 なるほど、クッキーを食べた訳ではなかったんだなぁ……良かった良かった。


「そしたら案の定、百合がトイレに立て籠もって『どうです? 今日は隣の朝沼君も協力者……ふふ、これで全てのトイレは確保しました。大人しくあたしの恋人になりなさい?』とかほざいてな?」


 ああ~! そのタイミングで言っちゃったのかぁ……そこはちゃんと確認してからの方が良かったねぇ。


「しかも? 聞けば友達紹介してくれる代わりに百合の話しに乗った? ふざけんなテメーよぉぉぉぉ! 俺だって彼女欲しーわ! クソが!」


 良かったじゃないか。

 百合ちゃん、お前の彼氏になりたがってたぞ?

 美少女の彼女だ! やったな!


「……って事で、貴様は死ね!」


 言うが早いが……目を血走らせた歩が、猪の亡霊に憑りつかれたかの様な勢いで突進し、同時に右腕を大きく振りかぶって来た!


「マジでごめん! 100円上げるから許してくれぇぇぇぇっ!」


 刹那、俺は全力でガード態勢を作りながらも声高に自分なりの謝意を言霊に乗せた。


 不思議な現象が起こったのは、まさにこの瞬間だった。

 

 バチバチバチバチィィィィィィィッッッッ!


 突発的に起こった火花の嵐!

 同時に発生した、謎のプラズマ!

 まるでCGでも見ているかの様な光景が視界を支配した。


 ……そして。


「……っ!」


 ほぼ同時……だろうか?

 厳密には良く分からない。

 正直、この時の俺は正気を保つ事が出来てなかった。

 だから、しっかりと記憶する事が出来た訳ではない。


 けれど……でも。

 確実に分かる事がある。

 まるで3DのCGみたいな光景が周囲に広がったと同じ程度の時。


「空間が……曲がっ…た?」


 目の前が……辺りが……ぐにゃっと、曲がった。

 まるで水の中に沢山の絵具を放り投げ……ゆっくりと掻き混ぜたかの様に……ぐにゃりと。

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