第2話 暑い夏、過去に戻る

 俺はおふくろに駆け寄り、笑いかけた。何だか今日は楽しい。遊べれば何でも良かった。


 白波が、青い空によく映える。白くて少し足裏が痛くなる砂場に、俺はいた。おふくろは、テントの中で横に伸びていた。一緒に来ていた友達の母親たちと話をしている。

 ―また、話してらぁ。せっかく、プールに来たのにしゃべってばっかで、ツマんなくないのかな―

 俺はそんなことを考えていると、背後から友達に呼ばれた。そちらへ行くと、すでに皆が泳いでいた。茹だるような暑さなので、誘われるままに、水面にダイヴした。


 水の中は冷たくない上、色々な匂いがする。沢山の人が入っているので、浮き輪やらビニールボールによく当たった。それすらも楽しくて、友達と共に笑っていた。


 友達と泳ぎを競い合ったり、水の流れる滑り台で遊んだり、楽しい時間が流れていった。自分がどこから来たのかなんて、すっかり忘れる程過去を満喫していた。


 空に黄色から紺へのグラデーションがかかる頃、俺たちは遊園地の出入り口にいた。夕暮れ寂しくなる、とはよく言ったものだ。俺は影が落ちる遊園地に、どことなく惹かれていた。何となく寂しいと思っていた。


 だんだん記憶が戻ってきて、俺は何故か無性に『帰りたい』と思った。たった6畳の俺の空間に。友達も、おふくろもいない、あの空間に。


「今日は、ありがとう。じゃあね!」

 おふくろが友達に手を振る。それにならって、俺も手を振る。遠く小さくなっていく友達に、何故か1ミリも寂しさなど覚えなかった。もう会えないことを知っていたからだろう。


 俺は「帰ろう」と言って歩き出した。すると、俺が離れないように手を掴まれた。お互い何もしゃべらずに自転車を取りにいった。駐輪場に着くころには、ぬるい雨が降り出していた。俺はそれを遠くに眺めている。


 繋がれていた手は、体温を感じなかった。

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