【完結】寝取られ動画でガッツポーズした俺、壊れかけた清楚な本命を純愛で救うと決めた――演技のデートのつもりだったのに、いつの間にかラブコメ始まってたんだが?
第12話 詩乃の震えに気づいた瞬間、演技できなくなったんだが?
第12話 詩乃の震えに気づいた瞬間、演技できなくなったんだが?
「じゃ、合わせてみよっか……はじめからで」
詩乃はそんな俺の気持ちを知ってか知らずか、台本を軽く胸元に持ちながら小さくうなずいた。
そして数行のやりとりのあと――
手を繋ぐ場面がやってきた。
俺は、台本を見つめるふりをしながら、そっと手を伸ばす。
……あれ?
手を取った瞬間、詩乃の指先が、かすかに震えていることに気づいた。
たしかに緊張はしてる。
でも、それだけじゃない気がした。
なんでだ…? 少し考える。
(……もしかして、これは、ただの演技の緊張じゃない…?)
俺の考えすぎか……? でも――
その震え方には、どこか“怯え”にも似た気配があった。
ふと、頭をよぎるのは――神崎の存在。
あの男が、詩乃にとってどれだけの“影”を落としているのか。
……もしかして、詩乃にとって『人と手をつなぐ』とか、『誰かと距離を詰める』とか。
そんな当たり前のことすら、怖くされてしまったんじゃないだろうか。
これは、俺の考えすぎかもしれない。
――そう思ったが、今の彼女の震えを見ていたらそうとしか思えなくなった。
(……くそ。そういうとこまで、あいつのせいかよ)
俺はそっと目を伏せて、台本のセリフなんか一度全部捨てて、
“俺として”の言葉を選んだ。
「……無理すんなよ、詩乃」
そっと手を取る。
指先が、ほんのかすかに震えているのがわかった。
思わず、ぎゅっと握ってしまいそうになる。
けど――それじゃダメだと思って、そっと力を抜いた。
ただつないだだけ。
でも、それだけで、伝わってくれと願った。
「台本なんかより――お前自身の方が、ずっと大事だから」
その声が届いたのか――
驚いたように見開いたその瞳が、すぐにふるえる。
詩乃の手から、ほんのわずかに震えが消えていった気がした。
言葉はなかった。でも、伝わった気がした。
俺が今、ちゃんと“見てる”ってこと。
誰かじゃなくて、“詩乃”を見てるってこと。
彼女は、ほんの少し、息を吸って――
ゆっくりと、微笑んだ。
その笑顔が、演技なのか素なのかは、分からない。
でも――少なくとも俺は、その表情が見れたことだけで、救われた気がした。
その後は、ぎこちないままセリフを終えて、合わせは終了した。
「……おつかれさまです」
詩乃が、いつもの丁寧な声で言ってくれる。
どこか、さっきまでよりもほんの少しだけ、言葉が柔らかい。
……なんかやらかしてないよな…俺?
俺の心拍数は全力で何かあった側だった。
台本に恋愛感情まで書いてないの、ずるない?
◇ ◇ ◇
夜。
月森詩乃は、布団の中で目を閉じながら、静かに息を吐いた。
暗い天井をぼんやりと見上げながら、今日の劇の練習を思い返す。
直哉さんの声。
――「無理すんなよ、詩乃」
――「お前自身の方が、ずっと大事だから」
それは、気休めの言葉じゃなかった。
あの時の直哉さんは、ちゃんと私の震えに気づいていた。
緊張で震えている訳じゃないことすら、見抜いていた言葉だった。
そして、優しく手を握ってくれた。
たったそれだけのことが、どうしようもなく胸に残っている。
(……ほんと、不思議)
気づけばずっと、私は彼のことばかり考えていた。
検索履歴も、頭の中も、ずっと直哉さんでいっぱいで。
ついには、名前呼びまでお願いしちゃって。
一緒にいると、なぜか安心できて、あたたかくて――
……なんで、この人と一緒にいると、こんなにやすらげるんだろう。
……なんで、この人にはここまで心を許せるんだろう。
ずっと、答えがわからなかった。
でも――今日、少しだけ、分かった気がした。
……もしかしたら、私――
「………
……なんで、私ばっかりこんなに揺れてるんだろ……」
小さくつぶやいたその声は、自分でもびっくりするくらい、震えていた。
“安心できるから”とか、“優しいから”とか。
それもあると思う。
だけど、それだけじゃなくて――
ちゃんと私を見て、言葉をくれて、支えてくれて。
怖がる私に、逃げずに向き合ってくれる人。
こんなふうに――誰も気づかなかった私の震えに、気づいてくれた人なんて、他にいなかった。
……そんなの、今まで
妹はいつもそばにいてくれた。
でも、それ以外の人から――こんなふうに、大事にされたことなんて、なかった。
あの一言で、初めて、誰かにちゃんと見てもらえた気がした。
柚葉以外から、大事にされたって思ったの、いつ以来だろう。
ふと、胸の奥がじんわりと熱くなって、
指先までぽかぽかしてくるような、そんな気がした。
……まだ自分の気持ちが分からない。
でも、これだけは確かだ。
今の自分が――ほんの少しだけ、好きになれた気がした。
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