Thread 07|最後の着信(終)

それから2週間ほどが過ぎた。


ホームルームの時間、担任が4人目の失踪者が出たと告げた。

教室がざわつき、小さな声があちこちで囁かれる。

「また誰か、ミズキの通話に出たらしい」

「いまどきLINEの怪談とか、まだ信じてるの?」

「でも、本当に一人ずついなくなってるんだよね」

それでも、教室の空気は不思議なほど普段通りだった。

まるで異変すら「日常の一部」になったかのように。

それが一番怖かった。

きっと、そうして彼らは忘れていくんだろう。


ユイは静かに席に座っていた。

何も言わず、誰とも目を合わせない。

でも、ふとした瞬間に、手のひらでスマホを隠すようにしている。

……彼女も、”繋がってしまった”のかもしれない。


誰もが忘れた頃に、『ミズキ』はまたLINE通話をかけてくる。

夜中の2時44分。

耳の奥に響く掠れた着信音。

『出てはいけない』

出た瞬間、それまでの日常の時間が止まる。

終わらない通話が、ただ続くだけだ。

誰かが思い出すたびに、『ミズキ』はその誰かに繋がる。

――今、俺がどこにいるのかなんて、もうどうでもいい。

ただ、誰かが気づくそのときまで。

通話中のまま、俺はここにいる。

スマホの画面には、ただ一行。

『ミズキ:通話中(120時間59分)』


この通話が切れた時、"彼女"はまた、ひとりぼっちになるのだろうか。


Fin.

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

[ThreadStory] 絶対に出てはいけない着信~ミズキからのLINE通話~ 風光 @huukougensou

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ