Thread 06|通話の向こう側
次の日、俺は登校前に寄ったコンビニで、予備バッテリーを買った。
とにかく、スマホの電源だけは絶対に切らさないように。
通話を切ったらいなくなる――ユイの言葉が、頭の奥で何度もリフレインしていた。
そんな俺の不安を煽るかのように、画面の上にはしつこく表示され続けていた。
『ミズキ:通話中(44時間38分)』
学校では誰にも言えなかった。
アヤカに続いてタカシも学校に来なくなって、ようやく教師やクラスメイト達も異変に気づき始めた。
そのせいか、その日の午後、俺たちは順番に相談室に呼ばれた。
でも、ミズキのことを話そうとすると、
その瞬間、目の前の相手にまで着信が来るんじゃないかと思って――
結局、何も言えなかった。
「ミズキは、誰かの心に引っかかるだけで、現れる」と言っていたユイの言葉が本当ならば。
みんな、無理に明るくしているのがわかった。
ユイも、それ以上は何も話さなくなった。
でも、俺にはわかる。
誰もがどこかで“繋がってしまってる”。
もう他人事じゃないってことを。
夜。
ベッドの上で、俺はスマホを握っていた。
本当は怖くて仕方がなかった。
けど、知りたい気持ちが勝ってしまった。
「通話の向こう側に何があるのか」を。
意を決して、スピーカーをONにした。
ノイズ。
かすかに、波のような、風のような音が聴こえた。
……いや、違う。誰かの、呼吸の音だ。
「……ありがとう……」
声がした。
耳元じゃない。スマホの奥から、直接、頭に響くような声。
「……誰かと話したかった……」
「ひとりは……さみしいから……」
そのとき、背後で“何か”が動いた音がした。
振り返れなかった。
画面がじわじわと明るくなっていく。カメラが、また勝手に起動していた。
映っていたのは、俺の後ろ――
そのすぐそばに、誰かの横顔。
黒く長い髪の隙間からのそく白く透明にも見える血の気の無い横顔。
肩にその長い黒髪があたるのを感じた。
全身が冷えていくのがわかった。
少しでも動けば、二度と戻れない場所へ連れていかれる。
そんな確信だけが、頭に浮かんだ。
動けない。画面から目が離せない。
次の瞬間、画面の中の彼女がゆっくりと振り向き、目が合った。
俺は息を止めた。
手に力が入りすぎて、スマホが小さく震える。
指先が氷のように冷たい。
『ミズキ:通話中(56時間13分)』
枕の上で画面の文字だけが、静かに光っていた。
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