Thread 05|今も通話中

夜中、ふと目が覚めた。

カーテンの隙間から月の光が差していたけれど、目が冴えるほどじゃない。

なのに、なぜか頭が重くて、胸の奥がざわざわする。

別の光を感じて横を見ると枕元のスマホが光っていた。

触れていないはずなのに、まぶしいほどの白さで周囲を照らしていた。

恐る恐るスマホを手に取ると、画面は、なぜかカメラが起動していた。

しかも背面。

自分の顔ではなく、部屋の奥――クローゼットとカーテンの間の暗がりを映していた。

不思議と音はなく、まるで映像だけが勝手に再生されているようだった。

そのとき、画面の中で何かが“揺れた”。

最初は風かと思った。

でも窓は閉まっている。

空気が動いていないのに、そこだけがふわりと揺れた。

細く、長い髪のような影。

人の背中にも見えた。

画面越しなのに、気配がこちらににじんでくる。

喉がひりついた。

一気に目が覚めた。

怖くなってスマホを伏せようとした瞬間、画面が暗転した。

自動でホームに戻ったようだった。

けれどその瞬間、背中の毛がぞっと逆立った。

画面の最上部に、見慣れない表示が浮かんでいた。

『ミズキ:通話中(37時間52分)』

血の気が引いた。

37時間――


「嘘だろ……?」

声が漏れた。ほぼ38時間。ありえない。

なのに、数字はそこに突きつけられている。

「あ……」

屋上で転がったスマホを拾い上げた瞬間が、脳裏にフラッシュバックした。

画面はすぐ消えた。だから放っておいた。

一昨日の昼休みからだとすれば、数字はぴたりと合う。

じゃぁ、あの時からずっと……は終わってなかったのか。

体が強張った。

同時に、ユイの声が耳の奥を刺した。

「通話を切った者はいなくなる」

じゃあ、どうしろってんだ。

繋げたままで、何が起こる。

終わりは? 次は?

思考が渦を巻き、スマホを投げたくなる衝動を、指に力を込めて耐えた。

「どうすりゃいいんだよ……」

情けなく、震えた声が漏れる。

ふと見ると、画面はもう、何事もなかったように真っ黒になっていた。

こわばっていた指先に、じわじわと温度が戻る。


俺は気づいた。

これは、終わりのない通話なんだ、と。

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