第39話 絶対にばれてる!私と創太の関係

 創太との勉強会を終えた翌日、私は洗面台の前で長い黒髪を梳かしながら、昨日の出来事を思い出していた。

 

 昨日はついにこのゲームの主人公である神代創太と話すことができた。直接尋ねるとはできなかったけど、神代創太の中に入っている意識は間違いなく翔だった。


 長年一緒に過ごしてきたのだ、間違うことはない。


 ただ、彼が私の中に存在している隼人という存在に気が付いてくれたかはわからない。システムの影響で私の口調やしぐさは女性のそれに変換されてしまう。無理に男っぽいしぐさをしても女の子が無理をしているようにしか見えない。


 鏡の中の美少女が不安な顔をしている。


 このわけのわからないゲームの世界から二人で戻ることはできるのだろうか?

 いや、何としても翔だけは必ず現実の世界に返さなくてはいけない。それがこんなことに巻き込んでしまった私の責任でもある。

 


 昨日のイベントでいくつか分かったこともある。


 まず、創太にはゲームの根幹にかかわる情報を伝えることはできない。


 あまり踏み入った話をすると私の意識が佐伯みのりの体から遮断される。ある一定の禁則事項に触れた場合、安全装置が働くようなイメージだろうか。今回は無事自由意思を回復できたからよかったものの、あまり繰り返し禁則事項に触れると重大なバグとみなされ削除対象になる危険性がある。今後の会話には十分気を付ける必要がある。


 あとわかったことは、ヒロインと主人公の会話イベントが始まると、私への監視が弱まるということだ。


 完全にゲームのシステムの制御下にあった私が、詩織たちが登場したことで解放された。イレギュラーの監視はあくまでゲームの本質ではない。進行を妨げない限り主人公とヒロインのイベントが始まればすべてのリソースがそちらに優先されるのだろう。あれだけの自然な動きと言語情報を操るAIプログラムだ。ヒロインを制御するには相当な演算リソースを消費するはず。


 システムの隙をつくというのなら、主人公とヒロインが対峙しているタイミングを狙うことが重要だ。

 

 ただ問題もある。ゲームシステムの隙は付けても、それ以上にあのサイコパスなヒロインたちに目をつけられたらそれこそ命の危機だ。ここにはまともな法律も警察もない。もし私が主人公との関係構築に障害となると考えたら彼女たちは間違いなく排除に動くだろう。

 

 昨日のイベントで私はヒロインたちと接触してしまった。あの時は見逃されたが、すでに警戒対象になっていてもおかしくはない。


 「今後はさらに気を付けて行動しなくちゃ」

 ひとりそうつぶやき、一般的なスキンケアとヘアセットを終えると私は学校へ向かうため家を後にした。

 


 教室に到着すると創太の周りにはすでにヒロインたちが集まっていた。


 昨日のこともある。ヒロインとのイベント中はあまりかかわらないようにした方がいいだろう。


 創太と一瞬目が合ったが、あえて目をそらす。

 そのまま自分の席に座ろうとしたところ、舞美が声をかけてきた。


「佐伯さん、おはよう」

 いままでNPCに向けてヒロインから話しかけることなんてなかったのに、やっぱり昨日のことで注目されているのかもしれない。


「お、おはようございます、舞美ちゃん」

 自然に返したつもりだったが、声が少し上ずってしまった。


「昨日は一人で勉強していたのよね?」


「はい、一人で勉強してました」


「そう……」

 舞美の視線が創太と私を交互に見たが、何も言わずに席に話はそこで終わった。

 


 午前の授業が終わった。


 私は図書委員の仕事で昼休みは図書室の貸し出し業務を行わなければならない。そのため食事も図書室の控室で食べることとなる。

 後ろの席では創太とヒロインたちの楽しいランチタイムが行われる。


 いつこちらに声がかけられるかもわからないので、正直なところ教室を離れる理由があるのは、ある意味ありがたかった。



 貸出業務と言っても、図書室の利用者はほとんどいない。ほとんどがゲームのシステムによって支配されているこの世界、NPCに個々の感情があるわけではない。あくまで図書室イベントが起こった時に必要となる人員の一人として配置されているだけ。行ってみれば背景部品と変わらないのだ。


 ひとりになることでいろいろと考えることもできる。


 今朝の反応から見て、私の存在をヒロインたちが疎ましく思い始めているのは間違いなさそうだ。今後、創太との接触には十分注意しなくてはいけない。


 普段は誰も来ることの無い図書室の扉が開かれた。そこには不安そうな顔で立っている創太の姿があった。彼は私の座るカウンターまで歩み寄る。


「神代君どうしたの?」

 今、関係性を注意しようと思っていたばかりだというのに。全く、あいつはいつも深く考えないで、思い立ったらすぐに行動に入っちゃうんだから。


「あの……ちょっと話がしたくて……」

 来てしまったのはしょうがない。監視の目がないなら、今後のことについて話すいい機会でもある。私が話しかけようとしたその時、


「あら、やっぱりここにいたのね」

 詩織の声に、ぼくたちは振り返った。


「霧島さん?」


「神代君、また図書室にいるのね。一人で来たの?」

 詩織の視線が私に向けられる。


「そ、そうだよ。ちょっと気になる本があってね、学校の図書室にあるか調べてもらっていたんだ」


「あら、佐伯さん。昨日も神代君を探していたらあなたに会ったけど、これって偶然かしら?」

 詩織の探るような視線。ここで動揺してはだめだ。


「た、たまたまです」


「そう……まあいいわ、テストも近いから勉強するのに場所を貸してもらいたいんだけど、いいわよね」

 有無を言わせぬ雰囲気で詩織が迫る。


「え、ええどうぞ。図書室は自習室も兼ねていますから、自由に使ってください」


「神代君、よかったらこの前みたいに一緒に勉強しない?」


「昼休みももう終わっちゃうから、今日は遠慮しておくよ、まだ食事していないんだ」

 創太は逃げるように図書室を後にする。


 詩織と二人きりになった図書室には重い空気が漂う。


 詩織は何も言わず私のカウンターが見えるテーブルに腰を下ろした。それから昼の休憩が終わるまでの時間、彼女は何の本を手に取ることもなく、ただじっとカウンターの私を凝視し続けていた。





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あとがき


みのりサイドからこの世界の真実に迫っていきます。

『絶コメ』今後の展開にご期待ください。


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 小説完結済み、約15万字、50章。

 

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 過去の作品はこちら!


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