第24話 絶対に避けられないプールイベント

 佐伯みのりとの密会から一週間が過ぎた。


 彼女はまだ学校を休んだままだ。今もあの部屋の中で自分のアイデンティティと戦っているのだろうか。


 その後も何度かみのりの家を訪ねようとしたが、小鞠たちの監視が一段と厳しくなり、あれ以来一度も、みのりに会うことはできていなかった。

 


 そうこうしている間に時が流れ、学校は夏休みに入っていた。

 夏休み初日、ぼくのスマートフォンに三人のヒロインからメッセージが届く。


「創太、今日プール行かない?」(小鞠)

「神代君、プールで泳ぎませんか?」(詩織)

「みんなでプール行こうよ♪」(舞美)


 三人とも、同じタイミングでプールに誘ってきた。明らかに示し合わせている。

 ヨシオからも連絡があった。

「よー、創太。今日は大事なイベントだぜ。三人の水着姿を堪能しろよ。でも、変なことは考えるなよ」


 プールイベント。恋愛ゲームの定番中の定番だ。しかし、今のぼくにとって、ヒロインたちとの水着イベントなど、どうでもよかった。


 あれ以来、みのりのことばかり考えていた。彼女は今、どうしているのだろうか。


 しかし、ヒロインたちの誘いを断ることはできない。ヨシオの警告通り、これは重要なイベントなのだろう。下手に断れば、不満度が一気に上昇してしまう。

 ぼくは重い気持ちでプールに向かった。


 * * *


 市民プールの入り口で待っていると、まず小鞠が現れた。オレンジ色のTシャツに白いショートパンツというカジュアルな格好で、肩にはスポーツバッグを掛けている。いつものバスケ部での活発さそのままの、動きやすそうな服装だった。


「創太、おはよう!」

 元気よく手を振りながら駆け寄ってくる。


 続いて詩織が到着した。淡いブルーのブラウスに白いフレアスカート、足元は上品なサンダルという、まるでファッション雑誌から抜け出してきたようなコーディネートだった。髪は普段よりも緩くウェーブをかけ、小さなパールのイヤリングが夏の日差しに輝いている。


「神代君、お待たせしました」

 いつもの清楚な笑顔で会釈する。


 最後に舞美が登場した。ピンクのオフショルダートップスに白いミニスカート、可愛らしいサンダルという、いかにもアイドルらしい華やかな装いだった。髪はツインテールを少し高めの位置で結び、ピンクのリボンがアクセントになっている。


「いい天気♪プール日和だね。 今日は楽しもうね」

 ポーズを決めながら笑いかける舞美。


 三人とも、それぞれの個性を活かした夏らしい私服で、完璧なコーディネートだった。


 その時、少し離れたところから小さな声が聞こえた。


「あの……神代君?」


 振り返ると、みのりが立っていた。


 彼女は薄いグレーのロングスリーブシャツに紺色のロングスカートという、真夏なのに肌の露出を極力避けた地味な格好をしていた。黒ぶちメガネはいつも通りで、髪は後ろで一つに束ねて左から胸の前に流していた。手には小さなトートバッグを持ち、どこか申し訳なさそうに立っている。


「佐伯さん?どうしてここに?」

 あの夜の密会以来に出会うみのりは、見たところこの前よりも体調は良さそうではある。だけど、なぜ彼女がヒロインズと一緒にここにいるのだろう?


「あ、あの、霧島さんたちに誘われて……」

 え?詩織たちが誘った?本来モブである彼女がこのイベントに参加する予定はなかっただろう。ぼくとかかわってしまったことでゲームのシナリオに組み込まれてしまったのか。


 みのりを目の敵にしているあの三人が誘ったとなると、何か思惑があってのことかもしれない。

 ここまで来てしまっている彼女をいまさら追い返すというわけにもいかない。


「佐伯さん、大丈夫なの?」


「はい……」

 その返事とは逆に、彼女の表情は暗く沈んでいた。


「あ、あの今日のプールはとっても重要で、何があっても絶対に私を……」

 みのりが何か言いかけたところに、ヨシオが割って入ってくる。


「おはよう佐伯さん、せっかく来たんだから一緒に楽しもうぜ」

 陽気なヨシオの姿に彼女は小さくうなずき、黙ってしまった。


「そうだね、せっかくのプールだし楽しもう」

 ぼくは曖昧に答えた。


「そうだぜ、みんなで遊んだほうが絶対楽しいって!」

 ヨシオはそういってぼくの首に腕を絡ませ、ぼくにだけ聞こえる小さな声で言った。


「ニコニコしてるけど、三人とも不満度がかなりヤバいぜ。その矛先がお前に向くか、それとも別の誰かに向くか……」ヨシオは意味ありげにみのりをちらりと見る。「注意しておけよ」


 それだけ言い残し、ヨシオはほかの女の子の方へ行き、軽薄な誉め言葉で今日の私服をほめながら談笑を始めた。


 この場所にぼくとみのりの二人だけが残された。

 二人だけになった今、彼女に聞きたいことは色々あった。

 なぜここにいるのか、今何を言いかけたのか……


「佐伯さん、さっき何か言いかけた?」


「い、いいえ、なんでも、ない、です」

 彼女の言葉はいまいち煮え切らない。だまってうつむいてしまった彼女に声をかける。


「何があるかわからないからさ、今日はできるだけぼくの近くにいて」


「は、はい」

 ゲームシステムが彼女をこのイベントに参加させたとなると、何かしらの思惑があるのだろう。ぼくに何ができるかわからないけど目の届く範囲にいれば何かしらの助けにはなれるはずだ。

 みのりに注意を促すと、ぼくらはそれぞれ更衣室に向かった。


 

 更衣室で着替えた後、プールサイドに現れたヒロインたちの水着姿は圧巻だった。


 小鞠は青いスポーツタイプのビキニ。健康的に日焼けした肌と引き締まった体型が、彼女の運動能力の高さを物語っている。背中で交差したストラップが、アスリートらしいデザインだった。


 詩織は深いネイビーのワンピース型水着。胸元に小さなリボンがあしらわれ、上品さと大人の魅力を兼ね備えている。色白の肌と相まって、まるで水辺の妖精のような美しさだ。


 舞美はピンクのフリルがたっぷりついた可愛らしいビキニ。トップスには小さなハートの飾りが付いており、いかにもアイドルらしい華やかさがある。完璧なプロポーションが、その魅力を最大限に引き立てていた。


 そして、最後に現れたみのりの姿に、ぼくは息を呑んだ。


 彼女は紺色のスクール水着を着ていた。しかし、それでも隠しきれない美しさがあった。普段の地味な印象とは打って変わって、すらりとした手足と整った体のラインが露わになっている。

 メガネを外した顔は、想像以上に美少女だった。大きな瞳と小さな唇、華奢な肩のラインが、信じられないほど女性らしい。

 しかし、みのり本人は恥ずかしさで真っ赤になり、タオルで体を隠そうとしている。


「あの……やっぱり私、帰ります……」

 小さく呟くみのり。


「せっかく来たんだから、楽しんでいけばいいじゃない」

 詩織が表面上は優しく言うが、その目は冷たかった。


「そうよ、せっかくの夏休みなんだから」

 舞美も同調するが、明らかに歓迎していない様子だった。


「そうそう、そんな恥ずかしい格好でも気にする必要ないって、時間がもったいないよ、創太そんな子ほっといて早くいこう!」

 小鞠がぼくの腕をつかんで流れるプールに引っ張っていく。相変わらずすごい力で、ぼくは抗うことができなかった。






 

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あとがき


 定番の水着回スタート!今後の展開にご期待ください。


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 小説完結済み、約15万字、50章。

 

 毎日午前7時頃、1日1回更新!

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* * *


 過去の作品はこちら!


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