第7話 絶対に見つかっちゃいけないアイドルとの下校デート

「創太、一緒に帰ろ〜」

 

 ヨシオと話しているところに小鞠がやってくる。さらに、その声を聞きつけた詩織までもがやってきた。


 「だめよ、神代君、今から学級委員の打ち合わせをしましょう。帰りに喫茶店でもどうかしら」

 小鞠をさえぎり、詩織が誘ってくる。

 ふたりの女子に囲まれるぼくの姿を確認した星野舞美も参戦してきた。


 「朝ぶつかったことの謝罪として一緒に帰ってあげてもいいんだからね」


 早速、一緒に帰宅する女子を選ぶ選択場面、誰を選ぶかで今後の展開が変わるってことか。助けを求めようとヨシオを見てもヨシオは楽しそうにニヤニヤぼくを見ている。

 これからぼくは、ヒロインたちとかかわりあいながらも、彼女たちからの好意には気が付かないふりをして、ラブコメ展開を絶対に阻止しなくてはならない。 

 

 むやみに好感度を上げるわけにはいかないが、全員頭のおかしい女たちだ、知り合ってしまった以上あまり邪険にすると暴発しかねない。初日からデッドエンドはごめんだ。

 

 ぼくはヨシオの情報からもっとも優先すべき対象を決める。


 「霧島さん、小鞠、ごめん今日は星野さんと話があるんだ」

 突然名前を呼ばれ顔を真っ赤にする舞美。


 「しょ、しょうがないわね。ぶつかってしまったお詫びもかねて今日だけ一緒に帰ってあげるわ」

 断られた二人はしぶしぶ席を離れる。


 舞美は「カバンとってくる」とニコニコしながら席を離れた。あからさまな好意を感じられるが、絶対に気づいてはいけない。あくまで友人ポジションを卒業まで維持することが重要だ。


 「もてる男はつらいね、南小鞠、霧島詩織の不満度が一気に上がったぜ、星野舞美は不満度急降下。かわりに好感度があがっていまのところ一番だな。っと、解説はここまで」

 ヨシオは言葉を区切り、小声でぼくにだけ聞こえるように伝えてきた。


 「この後は帰りにクレープ屋で買い食い、彼女の好物はイチゴ抹茶クレープだ」


 「え?」


 「お待たせ―」

 舞美が来たことで、話が中断する。


 ヨシオは「じゃーなー」手を振るとそのまま教室の外へ出て行ってしまった。

 校舎を出ると、舞美が歩きながら話し始めた。


 * * *


 「自己紹介でも言ったけど、実は私、今アイドル活動してるの」

 ぼくは驚いたフリをする。もちろんゲームで知っていることだが、初見として反応しなければならない。


「え、そうなの?すごいな」


「まあ、まだ駆け出しだけどね」

 そう言いながらも、舞美の表情は少し嬉しそうに見える。


 「そうだ、もうすぐライブがあるの。創太君もよかったら来てみない?」

 ここで断るわけにもいかないだろう。


「わかったよ、楽しみにしてる」


 「やった......」

 思わず両手を上げかけた舞美だったが、慌てて手を下ろし、わざとそっぽを向く。


 「じゃなかった。あなたに私のパフォーマンスの良し悪しがわかるとは思えないけど、まあ楽しんでちょうだい」

 

 クールを装っているつもりだが、先ほどの喜びようで台無しになっている。そのギャップがかえって彼女らしい。

 歩いていると、公園が見えてきた。


 「あ、クレープ屋さんだ」

 公園の中に移動販売が出店している。舞美は嬉しそうにお店に駆け寄る。


 ヨシオの言葉を思い出す。ここでクレープイベントをこなせという意味だったのだろう。


 「朝ぶつかったお詫びに今日はおごるよ」

 (ぶつかられたんだけど)と心の中でツッコミを入れる。


 「やったー、じゃあ私の分は神代が選んでよ。あっちのベンチで待ってるわ」

 舞美は噴水の前に置かれた公園のベンチを指さす。


「わかった、ちょっと待っててくれ」

 嬉しそうにベンチに向かう彼女の後姿を見つめ、ぼくはヨシオの情報が正しいのか確認にもなるな、と考えていた。


 「『イチゴ抹茶クレープ』ください。それと、シンプルなバナナクリームも」

 ぼくはクレープを受け取ると、足をぶらぶらさせてこちらを見つめている舞美の元に向かった。

 


 「好みに合ったかどうかわからないけど、はい、どうぞ」

 舞美のもとへ戻ると、『イチゴ抹茶クレープ』を手渡した。彼女は目を輝かせて受け取った。


「わー、イチゴ抹茶!私の大好物!ありがとう。よくわかったわね」

 

「たまたまだよ、ははは」

 満面の笑み。アイドルがぼく一人のために笑ってくれる。さすがゲームのヒロイン候補。顔面偏差値が高い。整った鼻筋、均整の取れたパーツ配置に吸い込まれるような大きな瞳。この笑顔のためなら何でもしてあげたいと思う男性はたくさんいるだろう。


 彼女のヤバさを十分理解しているぼくでさえ、クレープをほおばるマシュマロのような唇から目が離せない。


 バナナクレープを食べることも忘れ見とれてしまう。

 視線に気づいた舞美が顔を赤らめる。


 「ちょっと、恥ずかしいじゃない」


 「ご、ごめん。星野さんのうれしそうに食べる姿がかわいかったから」

 さらに顔を赤くする舞美。


 「ば、ばか」


 「かわいいなんて言われ慣れてるだろ」


 「それはそうだけど、男の子と二人きりでそんなこと言われたら恥ずかしいに決まってるでしょ。男の子と二人なんて初めてなんだから」

 そういってぼくの顔を見つめる舞美。「ねえ、南さんは『小鞠』なのに私のことは名前で呼んでくれないの?」


 「え?」

 思わずクレープを握り締める。中のバナナがクリームとともに押し出された。


「ねえ」

 まあ、名前の呼び方ぐらいで何か変わったりすることもないだろう。


「わ、わかったよ……、ま、舞美、さん」


「”さん”も無し!ま・い・み」


「は、はい、舞美」

 よくできましたと言わんばかりに満面の笑みを浮かべる舞美。その笑顔を自分だけで独占したいと思ってしまう衝動を、自分の腿をつねって何とか抑える。

 

 甘々な放課後デート。今でもほほのほてりが収まらない。

 彼女からの好意を受け止めれば、この幸せが永遠に続く。心が誘惑に屈しそうになる。

 しかし、幸せなシーンを貫くような、鋭い視線を背後から感じた。


 振り返ると、木の陰から詩織がこちらを見つめている。幸せな雰囲気から一転、一気に不穏な空気が流れ始めた。


 おいおい、こんなことで不満度パラメーター爆発しないよね。





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あとがき

 新作、長編ストーリースタートしました!

 小説完結済み、約15万字、50章。


 当面は、午前7時、午後5時ころの1日2回更新予定です!

 



 過去の作品はこちら!


女子高生〈陰陽師広報〉安倍日月の神鬼狂乱~蝦夷の英雄アテルイと安倍晴明の子孫が挑むのは荒覇吐神?!猫島・多賀城・鹽竈神社、宮城各地で大暴れ、千三百年の時を超えた妖と神の物語

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三か月後の彼女~時間差メール恋愛中:バイトクビになったけど、3ヶ月後の彼女からメールが届きました~ -

https://kakuyomu.jp/works/16818622173813616817

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