男装の私が、救国の乙女の『推し』とやらに祭り上げられましたが、本命は幼なじみ(男)一途です!
矢井瀬 月(やいせ つき)
00.プロローグ
✽✽✽
「ああッ! 今日も顔が良い!!」
宮殿のテラスで紅茶を飲んでいた、“救国の乙女”サラが、突如テーブルに突っ伏した。
「えっ、いきなり⁉ さっきまで普通に喋ってたのに、どうしたの⁉」
男装した私──“ティム”は、驚いて彼女を覗き込む。
すると、サラの肩越しにある花瓶に挿した枝から、ポンッと一輪花が咲くのが見えた。
「覗きこまないでぇ……! 過剰なファンサは禁止!」
顔を上げたサラは、潤んだ瞳で訴えてくる。
「“顔が良い”はね、オタクの鳴き声なの! 語彙が死ぬと、それしか言えなくなるの! ああもう、ティムの紅茶が聖水に見えた……!」
「聖水って何。なんか……、こっちが恥ずかしいんだけど」
毎日のことなのに、私は過大な賛辞に未だ慣れない。頬を掻きながら困っていると、隣の椅子に腰かけていた幼なじみのニオが、苦笑いを浮かべながら、湯気の立つカップを私に差し出してきた。
「ねえ、ティム。これ熱いから……そっち冷めてるなら、僕のと交換してくれない?」
「うん、いいよ。はい!」
「ありがとう」
私が飲みかけのカップを差し出すと、ニオはいつものようににっこりと微笑んだ。私もつられて笑い返す。
すると、いつの間にか顔を上げていたサラが、こちらを見ながらポカンと口を開けていた。かと思うと、
──ポンッ、ポンッ、ポンッ。
また花瓶の枝に、2輪、3輪と花が咲いた。
「……今日はよく咲くな」
「本当だ。サラの“お役目”絶好調だね」
そう言って私たちが笑いかけると、サラは顔を真っ赤にして、ひときわ大きくテーブルに突っ伏した。
✽✽✽
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