第5話 世界が震えた夜

《ファジーロック最終夜 〜REAL experience、降臨〜》


──午後9時、メインステージ。


湿った夜風が肌を撫でる。観客のあいだには、妙な静けさと「そろそろ帰ろっかな……」という空気が漂っていた。


「いや、まだ“トリ”残ってるって」

「え、さっきのレディオブレインで終わりじゃないの?」


ステージ裏では、世界の重鎮たちがまったり中だ。


トム・ヨーカドー(レディオブレイン)、紅茶をすすりながら、

「……これ、リプトンじゃね?」と、不満のご様子。


ケルヴィン(マイブラチョコ)はというと、イヤモニのケーブルが絡まって取れず、黙って解くこと7分。


ビリー・コーナン(スマパン粉)は筋トレ中。

ジェームス・イナダは鼻歌で「上を向いて歩こう」を口ずさんでいる。


「で、次は誰だっけ?」

「ジャパンの、10代の……なんとかexperience?」

「ああ、“REAL えくすぺりえんす”とかいう──ぷっ」


セットリストは、

①「THIS IS 最高」

②「ガリガリ君はソーダ味に限る」

③「辛いなんて言うなよ、これカレーなんだから」

④地獄のワルツ


……全員、ちょっと鼻で笑った。


が。


直後、照明がバチン!!


全照明が一斉に落ちる。


その瞬間──


アチョーッ!チョチョーー!

吼えるハジメ!


いつものツンツルテンの学ラン(制服の田中)+体育館履き。丸メガネがギラリと光る!

唸るギター。ジミヘンサウンドでホールズワーススケール!シーツ・オブ・サウンドが炸裂する!


ドガァァァァァァァン!!!!

会場を粉砕する勢いのドラム。


続いて、地を這うベースライン。

まさに毒蛇。


そこに──ミサキの透き通るようなピュアボイス!

……からの強烈ハスキーボイス!


「なめんなコラァアアア!!!!」

「静岡なめた奴ぁ、富士山ぶん投げんぞコラァ!!」


と突如豹変。

会場、沈黙。


いや、なんか…すごい。

中学生なのに、音がエモすぎる。


「……なにこれ……ロックのフリした、思春期の告白……?」


バックステージでは海外勢が大混乱だ。


ビリー・コーナンは、スキンヘッドをバンバン叩きながら悔しがっている。

(その音がPAに乗って「カン!カン!」と鳴り響く)


ジェームス・イナダは言った。

「ミサキ、怖Kawaii……」


ケルヴィンは腕を組みながら呟いた。

「この音の壁……うちのとは素材が違う。うちらは石膏ボード、奴らはコンクリート」


トム・ヨーカドーは、呆然としながらつぶやく。

「コードじゃない。魂……あと、あの学ランはズルい‥」


客席──


観客、泣き出す人多数。

「えっ……中学生?嘘でしょ?うちの甥っ子、まだ九九できないよ?」


「REAL! REAL! REAL!」のコールが止まらない。


照明が落ち、音が止む。

しん……と静まり返った会場は、もはや“昇天後”。


通路──


楽屋に戻る途中、トム・ヨーカドーが近づいてきた。


「Hey. That was… not music. That was a revolution.」

肩をポンと叩かれたハジメは、「分かってるじゃんか、オマエ」、と黒縁メガネを光らせた。


あの日。


世界の耳がREALに奪われた。

年齢も、国籍も、言語も、すべてを超えて。

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