第4話 ロックフェスからの招待状

《招待状》


 いつものラーメン店、“麺屋やよい”

郵便受けに、分厚い封筒が一つ。差出人は「Mt. Fuzzy Rock Festival事務局」。

帰省でたまたまお祭りステージを観に来ていた、あの大物プロデューサーからだ。

中には、出演オファー状と、関係者用パス。便箋には手書きの一文が添えられていた。


「君たちの音には、もう一度ロックを信じさせる力がある。ぶちかましてくれ。」


俺たちが……ファジーロック!?

え? あの富士山登る系の行事じゃなくて?


「何言ってんだユウジ! そんなこと言ってる場合か!湯沢高原スキー場のやつ!ガチのロックフェスだぜ。なあ、ミサキさん!」


──そう、ミサキさん。

唯一の女子メンバーで、葵高1年生。年上。

俺(ハジメ)もユウジも、さん付けで呼ばざるを得ない。でも、たまに調子に乗った時は、ミサキネキ呼びするが。


でさ、出演バンド、見た?

やばいからな。まじで‥‥。


① スマッシュ・パン粉kids

アメリカのオルタナバンド。

大人の世界の“反抗期”みたいな音出してくる。ボーカルのビリー・コーナン、たぶん給食嫌いだったタイプ。ギターのジェームス・イナダは、日系人。


② マイ・ブラッディ・チョコレート

シューゲイザー界の神。

音が分厚すぎて、「お香焚いて聴いたら昇天する」って噂されてる。

メンバー、ずっと斜め下見て演奏。


③ レディオブレイン

英国代表。

歌詞が難解すぎてカバーしようとすると脳の処理が止まる。


④ REAL experience(俺たち)

平均年齢14.2歳、昼は義務教育、夜は音の戦士。

現国・数学と戦い、ロックと向き合う。


この中に入って、なぜか俺たちがトリ!?!?!?



でもな、

やるからには本気だ。

REAL experience、中学生だってファジーロック鳴らせるんだって、証明してやろうぜ。


ファジーロックのラストに──

学ランの音鳴らすぞ!!!



【さらに数日後】


都内某大手レコード会社から、正式なメジャーデビューの打診。

CM、テレビ出演、タイアップ、年間売上保証──

提示された契約書の厚みに、カナメが鼻で笑った。


「なんだこの束、マンガ雑誌か?」


ユウジは一通り目を通した後、黙って破ってゴミ箱へ。


「数字じゃ動かねぇ。音だよ、音。」


ハジメが立ち上がって、ギターケースにステッカーを貼った。

“NO THANK YOU.”──白地に黒文字。


そんな中、ミサキがひときわ強い声で言い放つ。

「うちら、自由でいたいだよ。でもさあ、こう言えばいいじゃん。“メジャー、喰ってやるら!”」

今日もキツめの静岡弁が冴え渡る。


俺たち、生涯インディーズだ!

アマチュアのままで、メジャーを喰う!


静かだった作戦本部(いつものラーメン屋)が一斉に燃え上がる。

REAL experience、ついに時代と向き合う準備が整った。

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