第3話 リハーサル
リハ
次の週、スタジオ。と言っても商店街の使われていない店舗の2階だ。やよいさんの紹介でタダで使わせてもらっている。
暑い。エアコン効いてんのに暑い。
ミサキが持ってきたカレーの歌詞のせいか、ハジメのシタールのせいか、それともこのバンドの温度のせいか。
「“THIS IS 最高”からいくぞー!」
ミサキの叫びとともに、ギターがかき鳴らされる。
イントロ、カナメのドラムが波みたいに暴れる。
タム連打。ドコドコドコドコ!
その上にユウジのベースがドッシリ重ねてくる。
そこにミサキのシャウトぶち込まれる。荒々しく、でもどこか陽気。
「お前らァァァァ!!波乗れてんのかァァァ!?」
叫ぶミサキ、拳を突き上げながらで大暴れ。
「そろそろAメロ!歌入れるぞッ!」
「“俺のハートは、620hPa!”」
「気圧!!」
テンションの高いまま、カレー曲へ突入。
ミサキが叫ぶ。「“辛いなんて言うなよ、これカレーなんだから”!」
一拍空いて、ステージ中央――シタール担当・ハジメが静かに一音鳴らす。
ビィィィィィン……。
異国の空気が一気にスタジオに立ちこめる。
「いけぇっハジメぇ!!」
まさかのロックバンドにシタール投入。
だがこれが異常にカッコいい。
ミサキがスパイスのごとくかすれたシャウトで乗せる。
「スパイス!!情熱!!涙がクミンッ!!」
「クミンッ!!!」
全員シャウト。
全員汗だく。
ユウジが「ターバン巻けって言ったの誰だよ…」と呟いてたけど、誰も聞いてない。
そして、最後は問題の名曲、
「ガリガリ君はソーダ味に限る」。
「真夏のバカ野郎どもに捧げるぜぇぇええ!!!」
リフから入って、全員爆走。
BPM190、ダウンピッキング地獄。
だが、誰も止まらない。
「チョコとか梨とか季節限定!!でも結局!!」
「ソーダァァァァア!!!」
「ガリガリィィィ!!」
「君ィィィィィィィィィ!!」
叫びながら、全員が確信した。
このアルバム、絶対に伝説になる。
たぶん方向は間違ってるけど、魂は合ってる。
録音が終わったあと、誰からともなく床に倒れ込んだ。
ハジメのシタールがかすかに鳴り続けている。
「タイトル、“ガリ・カレ”でいこう」
「それ、もはやロックでもないんじゃ……」
「いや、ロックってのは魂だから」
「名言っぽく言ったな」
スタジオに、笑いと汗と、変な感動が残っていた。
ちゃぶ台から始まった3曲が、今やどのバンドも真似できない、ゴリゴリのロックサウンドになった。
次はMV撮影か!?
炎天下でガリガリ君食べて、カレー持って、シタールぶら下げて、ロケに行くつもりらしい。
……絶対に誰か倒れる。
つづく‥
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