社畜俺、魔王になったら超イージーだったんだが...

加来夏希

一期(仮)

第1話 目が覚めたら、俺は魔王だった

目が覚めたら、俺は玉座に座っていた。


いや違う、正確にはこうだ。

会社のデスクに突っ伏して気絶して、次に目が覚めたら、玉座に座らされていた。


左右には人外どもが控えている。角とか生えてるし、口から炎とか出てるし、なんか光ってる奴もいる。

目の前にはドでかい鏡。そこに映っているのは、俺――じゃない。


ツノが生えて、黒マントで、金ピカの王冠をかぶった――THE・魔王。


は?


「……陛下、ついにご覚醒なされましたか!」

「お身体の具合はいかがですか!?」

「この大陸全土を統べる、偉大なる第666代目・魔王様!」


……え、何このノリ。新入社員歓迎会? 地獄の余興?


「いや、俺、普通の社畜だったんですけど」


気付けばそう口走っていた。

すると家臣らしい奴らは顔を見合わせて、なぜか一様に頷く。


あ、もしかして俺まずいこと言っちゃった系?

うーん、もしかして終わった?転生した瞬間死亡endパターンですかね…?


「さすが陛下……社畜などという、異界の修羅を生き抜かれたご経験があるとは!」

「それならば、この程度の世界、容易く御支配いただけましょう!」

「社畜経験持ちの魔王……か、完璧じゃないか……!」


こいつら、何かを壮大に誤解してないか。

俺が世界を容易く支配?ないない。俺はそこら辺の上司の機嫌を取ることくらいの力しか持ってないぞ。

ましてや、それも全然きかないから残業していたわけで…


だが――俺はそこである考えがよぎる。

残業ゼロ。部下は勝手に働く。休めと言われて休むと褒められる。

上司はいない。

何なら、世界が俺の機嫌を伺う。


――あれ? これ、超イージーじゃね?



──試しに言ってみた。


「……じゃあ、その、今日の仕事って?」


「本日は特にございません」


即答だった。


「では、好きにお過ごしください」

「どうかご無理なさらず、ご休憩を」

「魔王様が椅子に座っているだけで、この世界は安泰ですから」


……マジか。

本当に仕事、ないのか。

残業どころか、定時もない。

俺がサボっていれば平和。逆に働こうとしたら怒られる。

すげえ、この世界、正しい。


「……うん、じゃあ俺、昼寝していい?」


「もちろんでございます!」

「偉大なる陛下の英断、感涙に堪えません!」

「布団の準備を急げ!!」


有能すぎる。

前世の俺が言われたら殴りかかりそうになるかもだぞ、今の俺の発言。

なんだこれ、超ホワイト企業かよ。いや企業じゃなくて魔王軍だけど。


……そうだな。

この世界、わりと楽しいかもしれない。


というわけで、昼寝してから世界征服を考えようと思う。

いや、もう支配してるんだけどな。

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