☆狂電脳☆ ランサーアーガール
イズラ
[第1章]誰が狂わせた脳内庭園
1.ランサー
高層ビルが立ち並ぶ首都・東京。
かつて日本の核として人々で密集していた大都市は、空っぽのコロニーと化していた。唯一残るのは、動き回る鉄板のみ。
「人間──つまり、『ヒト』。野生の種は、すべて絶滅しマした」
ある鉄板が発した言葉は、ランサーの耳に突き刺さった。
「……なぜ?」
スクランブル交差点に突き立ったランサーは、二本の細い足を震わせた。
「……なぜ、滅びたのです?」
尋ねたものの、彼女のCPUは、”結論”をとっくのとうに導き出していた。
──暴走。
「──それが、人類野生絶滅の真相でした」
鉄板は、歴史の授業のような語りを終えると、さっさと作業に戻る。
長時間の解説を聞き終えたランサーの電脳は、「情報不足」の結論を叩き出した。長い眠りから目覚めたばかりの彼女からすれば、現代の情報量は”桁”が違ったのだ。
「……もうひとつ、よろしいですか?」
もう一度鉄板に近づき、喋りかけた。巨大な鉄板はゆっくりと回転して”面”を向けると、「なんですか?」と発した。
……長い沈黙の後、少女は深く息を吸った。
「──私は、『シヤマ製電脳生命体:実験体1211a〈ランサー〉』です。……あなたの名前は」
「ガーディアンです」
ランサーの遠慮気味の問いに、鉄板は重ねて即答した。
「……え?」
ランサーは唖然とした。
彼女が生まれた時代では、”あり得ない名乗り方”だった。鉄板は”個”としての名称を名乗らず、”種”──つまり『ガーディアン』という製品名のみを名乗った。その事実が、彼女の電脳に焼きついてしまったのだ。
現代の電脳生命体は、もはや「生命体」とは呼べないのかもしれない。我を持たず、生殖本能を持たず、ただひたすら「機能」として働き続ける存在。それは、遠い昔に蔓延っていた、「機械的ロボット」そのものだった。
「……こんなことって……」
怒りに満ちたココロが強く脈打つ。
「……私の楽園はどこにいったの? 紫山先生は? ファンのみんなは? あのキショい東京は……?」
どれほど記憶を読み込んでも、どんな演算をしても、滅亡の文字を表す「解」。
息をすることさえ忘れ、電脳生命体は冷たいアスファルトに
「……”野生”は全部消えた。……それならば、やるべきことは一つ──」
かつて「電脳アイドル」として降臨した少女の、果てしない冒険が始まる。
「”培養”されたファンのみんなは、どこにいるの……!?」
──我を手に入れても、本能には逆らえない。
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