第10話 怪談朗読(後編)

 スマホから聞こえてくる怪談と、今私の身に起きてることが一致している。

 すると焦る私に構わず、怪談朗読は続く。


『奇妙な出来事に私は震えました。すると次の瞬間、今度は笑い声が聞こえてきたのです』


 ──ハハハハハハハハッ!


「ひいっ!?」


 朗読の内容に合わせるかのように、聞こえてきた笑い声。

 もう偶然の一致とは思えなかった。


 なにか、おかしな事が起こっている。

 私の状況を朗読されているのか、朗読された内容が私の身に起きているのかはわからないけど、今この部屋で起きておる事とスマホから流れてくる朗読が連動しているのは間違いない!


 このまま放っておいたら、もっと恐ろしい事が起こるんじゃ……そうだ!


 私はすぐさま、スマホの電源を切ろうとする。

 声が聞こえなくなったら、この恐ろしい現象も終わるかもしれない。

 だけど……。


「なんで? 電源が切れない!」


 いくら電源を切ろうとしても、操作を受け付けてくれない。

 アプリを閉じることもできないし、あせる私を嘲笑うかのように、朗読は続く。


『……その時私のすぐ後ろで、人の気配がしたのです』


 ──ゴトゴト!


 さっきまでより大きな音がして、背後に誰かの気配がした。


 ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい!


 振り返る勇気は出せなかったけど、私はスマホを壊そうと思いっきり殴った!

 けど、霊的なパワーが作用したのか、それとも単純に私の力が弱いからか、画面にヒビ一つはいらない。

 壊すことができなかった以上、怪異が収まるはずもない。


 すると、背後にいた誰かが、私の首根っこを掴んだ!


「──がっ!?」


 強い力で首を捕まれて、一瞬意識が飛びそうになった!


『後ろにいた誰かが、いきなり私の首をつかんできました。そしてそのままへし折ろうと、力をかけてきたのです』


 スマホからは、不吉な予言が流れてくる。

 わ、私、このまま死んじゃうのかなあ?

 最悪の展開が頭をよぎったその時──


「クォ~~ン」


 聞こえてきたのは、何とも可愛らしい遠吠え。

 ワタアメだ。

 飼い主のピンチに気づいたのか、首根っこを掴んでる何者かを威嚇するように、ワタアメが遠吠えをしている。


「クォ~~ン」


 ……ダメだ。遠吠えがかわいすぎて、とても威嚇になんてならない。

 だけどその時、首を掴む力が、フッと軽くなった。


 えっ、なんで?

 まさかワタアメの遠吠えで怯んだの?


 だとしたら、ずいぶん犬が苦手なオバケだ。

 まるで藤子不二雄先生の、頭に毛が3本あるオバケ。

 もっとも首を絞めてきたあたり、そんなかわいらしいものじゃないけど。


「クォ~~ン、クォ~~ン」


 まるでワタアメが鳴くのに合わせるように、少しずつ力が弱まっていくみたい。

 よくわからないけど、助かるなら今がチャンス!

 私は力の弱まった手を振り払うと、後ろにいた誰かを見た……がっ!


「ひいっ!?」


 声にならない悲鳴を上げる。

 そこにいたのは顔がつぶれ、まるで溺死体のように体がブクブクに膨れ、左右非対称なアンバランスな長さの手足を持った人間……いや、これを人間と呼んでいいのか?

 まるでゲームに出てくる、アンデット系のモンスターのよう。

 ガクガクと震える私に、低い声で唸りながらモンスターが迫る。


「アア──」


 ダメ、やられる!

 だけど次の瞬間、私とモンスターの間に、小さな毛玉が割って入ってきた。

 ワタアメだ!


「ワン! ワン!」

「アァ……」


 ワタアメを前にして、モンスターの動きが鈍る。

 けどこんなに大きさが違うんだもの。もしもモンスターがその気になれば、きっとワタアメは人たまりもない。

 私がしっかりしないと……。


『私を守るように、飼い犬がモンスターに吠え続けます……』


 スマホからは、相変わらず今の状況を実況しているかのような朗読が続いている。

 やっぱり、この朗読のせいでおかしなことが起きているんだ。

 だったら!


 私はスマホを掴むと、ダッシュでベランダに出るガラス戸を開ける。

 きっとあのモンスターと戦っても勝てないだろう。

 けどこれなら──

 私はベランダから外に向かって、持っていたスマホをぶん投げた!


 私が住んでいるのは、アパートの3階。

 もしも下に人がいたら大変だったけど、そんなの考えてる余裕はなかった。


 スマホは落ちていき、朗読が聞こえなくなった。

 お願い、これで何とかなって!


 すると部屋の中にあった、怪しげな気配が消えた気がした。

 さあ、これでどうだ……。


 ゆっくりと振り返ると、さっきまで確かにいたはずのモンスターの姿は消えていて、ワタアメがいるばかり。


「……た、助かったの?」


 安堵の息をもらしながら、ヘナヘナとベランダに座り込む。

 するとすぐに、モフモフした毛玉がやってきた。

 ワタアメだ。


「キャン!」

「ワ、ワタアメ~」


 助かったことに安堵しながら、私はワタアメを抱き締めた。





 ……翌日。

 朝になってベランダから投げたスマホを回収に行くと、見事に壊れていた。

 けどもしかしたら、壊れたおかげで怪談朗読が止まって助かったのかもしれない。

 スマホはダメになったけど、命が助かったんだからよしとしよう。


 結局、あの現象が何だったのかはわからない。

 ただ気になったのが、あの朗読で言っていた百物語のこと。


 私が怪談を聞き始めたのは、3ヶ月くらい前。

 それから毎日3話くらい聞いていってたから、聞いた怪談の数は、そろそろ100話になっているはず。

 まさか100話達成したから百物語のように、オバケが現れたんじゃ?


 それから私は、寝る前に怪談を聞くのをやめた。

 怪談を聞くのがすっかり怖くなってしまって、寝るときも部屋を真っ暗にせずに、小さな明かりをつけるようにしている。


 あとこれは最近知ったことだけど、犬の遠吠えには魔を祓う効果があるのだとか。

 やっぱりあの時、私の危機を察したワタアメが助けてくれたのかな?

 だとしたらさすが私の相棒。

 もっとも、オバケを追い払えるくらい強そうには見えないんだけどね。


「キャン! キャン!」


 あらら、怒った?

 ふふっ、ゴメンね。でも、ちゃんと頼りにしてるんだから。


 あれ以来私は時々、ワタアメと一緒に寝ることにしてる。


「お休みワタアメ。何か変なものがきたら、その時は吠えるんだよ」

「キャン!」


 モフモフしたワタアメを抱っこしながら、私は今日も眠りにつく。

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