第3話 トイレの顔のシミ(前編)
怖い体験をしたことあるかって?
うん、あるよ。
まずは自己紹介をしておくね。
私の名前は、木島翠。
春に高校にに入学したばかりの、一年生よ。
それで怖い体験っていうのは、この高校で起きたことなの。
私の教室のすぐ近くにはトイレがあって、普段クラスの子たちはそこを使ってるんだけど。
そのトイレの中にある個室の一つが、ひどく気味が悪いの。
問題の個室は、女子トイレにあって。
最初にそれを感じたのは、入学してすぐだったかな。
休み時間に一番奥の個室に入っていたら、なんだか妙な感覚に襲われたの。
視線を感じるっていうのかな? まるで誰かに見られているような感覚。
場所が場所なだけに、本当に誰かに見られていたら最悪でしょ。
でもあんな狭い空間で、もちろん私以外に誰かいるわけじゃない。
だけどそれでもイヤな感覚は拭えずに。
そしたらその視線が、上から感じてることに気がしたの。
個室の上と天井の間って、隙間があるでしょ。
もしかして、誰かがそこから覗いてる?
一瞬そう思ってゾッとして、慌てて上を見たんだけど。
思わず「キャアッ」って悲鳴を上げちゃった。
あ、先に言っとくけど、べつに誰かが覗いてたわけじゃなかったんだ。
悲鳴を上げた原因は隙間じゃなくて、天井の方。
ちょうど個室の真上の天井に、シミがあったの。
人の顔の形をした、真っ黒なシミがね。
なんだ、ただのシミかって思った?
言ってしまえばそうなんだけどさ。変な視線を感じてる時にそんなの見たんだよ。
すごく不気味で、怖かったんだから。
まるでそのシミがジッとこっちを見てる気がして気持ち悪くて、私は急いで個室を出たの。
人の顔の形をしたシミなんて怪談の定番だけど、実際にあんな経験をすると、とても気持ち悪く思えて。
それからできるだけ、奥の個室は使わないことにしたの。
けど他の個室が全部埋まってることもあって、そういう時は仕方なく奥のトイレを使うしかなかったんだけど、その度に視線を感じて。
本当に気持ち悪い。
それで、ゴールデンウィークが終わって少ししたくらいだったかな。
その頃になると高校生活にも馴染んできて、仲のいいグループもできてたんだけど、みんなに打ち明けたの。
奥のトイレのシミが気になってる。視線を感じて怖いってね。
そしたら……。
「え、翠も? 私もあのシミ、気になってたんだよね」
「私も。あそこのトイレ使ってると誰かに見られてる気がするから、なるべく使わないようにしてるの」
どうやらあのトイレやシミを不気味に思っていたのは、私だけじゃなかったみたい。
みんな同じことを思ってたんだってわかると、変な安心感と連帯感が生まれたんだけど、根本的な解決にはなってない。
トイレの一つが使えないのは地味に不便だったし、どうにかできないかみんなで話し合ったの。
「先生に言って、何とかしてもらう?」
一人の子がそう提案して、先生に話してみたんだけど……。
「ああ、あのシミね。それが、去年も同じことを言う生徒がいて塗り直したんだけど、またすぐに出てきちゃったの」
返ってきたのは、そんな答え。
去年あのトイレを使っていた先輩達も、同じことを思ってたみたい。
けど塗り直したのに、また同じシミが出てくるなんて……。
「ひょっとして、怪奇現象?」
「あのシミ、幽霊か何かってこと? ヤバ!」
「幽霊に見られてるなんて最悪じゃん! 二度とあのトイレ使えないよ!」
先生から聞いた話しで、ますます恐怖を増長させちゃった。
私たちはお坊さんや神社の神主さんでも呼んでお祓いしてもらいたかったけど、去年塗り直しには応じた学校側も、残念ながらお祓いはやってくれなかった。
どうしよう。このまま放っておくしかないのかなあ?
すると一人の子が、こんなことを言い出した。
「……ねえ、風見くんに相談してみる?」
「風見くんって、あの風見くん?」
思わぬ提案に、私たちは顔を見合わせる。
風見くんは同じクラスの男子なんだけど、入学当初からよく、自分には霊感があるって言ってるの。
手相占いもできるとか言って、いきなり手を握ってきたことあったっけ。
あの時はビックリして振り払ったけど、風見くんはヘラヘラ笑ってた。
そんな風見くんに、相談するのかあ……。
「風見くんに話して、何とかなるかなあ? そもそも風見くん、本当に霊感があるの? 手相を見るとか言って女子の手を触ろうとしてるだけってことない?」
「どうも胡散臭いんだよねえ。それに、シミがあるのは女子トイレでしょ。風見くんを連れていかなきゃいけないってこと?」
「それは私も思うけど……じゃああのシミを、このまま放っておくの?」
げ、それもイヤだなあ。
不気味なシミをあのままにしておくか、それとも風見くんに相談するか。
私たちは究極の2択を迫られてる。
そうして迷ったあげく、風見くんを頼ることにしたの。
昼休みに声をかけてトイレのシミの話をすると、風見くんはうんうんと頷きながら聞いてくれた。
「なるほどね。そんなものがあるんじゃ、さぞ怖かっただろう。けどもう大丈夫、このオレに任せなさい!」
「本当にいいの? そもそも私たちが気味悪がってるだけで、霊的なものかもわからないんだけど」
「いや、それは悪霊で間違いないよ。オレくらいになると、話を聞くだけでわかるんだよ。でも安心するといい。オレがしっかり祓ってあげるから!」
自信満々に胸を張る姿は頼もしい……のかな?
調べもせずに悪霊だって言ってるあたり、どうにも胡散臭さを感じるんだけど。
風見くんに相談して、本当によかったのかな?
「けど、どうやって見てもらおうか? シミがあるの、女子トイレだし」
「それじゃあ、作戦会議をしようじゃないか。詳しい話を、じっくり聞きたいしね」
風見くんは言いながら私の肩に手を回して、振り払おうかと思ったけど、お願いした手前ぞんざいに扱うわけにもいかない。
ううっ、早くも相談したことを、後悔してきたよ。
話し合いはほとんど風見くんの、オレの霊力は本物だとか、テレビ局が取材に来た事もあるといった自分語りだったけど、一応トイレの事についても話して。
放課後みんなで、行ってみようって事で決まった。
もしも誰かに見つかっても、私たちが虫が出たからたまたま近くにいた風見くんを頼ったとでも言えば、一応言い訳にはなるだろう。
そうして迎えた放課後、私たちはトイレに赴いたの。
(後編に続く)
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